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その後の秋季大会はというと、安室高校を破った藤井高校は3回戦にてあっけなく姿を消し、最終的に優勝を果たしたのは夏の大会と同様、赤坂実業高校であった。
しかし安室高校ナインはその結果について過剰に反応する事もなく、淡々と日々の練習をこなしていた。
秋を過ぎ、段々と息が白くなる季節に入っても安室高校野球部員たちは来年の為に一所懸命練習に励んだ。
そして12月25日、この年最後の練習を終えた。
石原からはお疲れ様、との短い挨拶があり、全体練習は解散した。しかし、ここで練習を終えるほど、安室高校野球部員たちの意識は低くない。
「青山ァ!ノックすんぞ!」
「う、ウッス!」
カキィーーン!!ポロっ......
「コラー!!!」
ブン!ブン!ブン!ブン!ブン!
ブン!ブン!ブン!ブン!ブン!
ブン!ブン!ブン!ブン!ブン!
各自、弱点を補充するべく、自主練習に励んでいる。ケガをしている肘井はひたすらランニングをしたり、投手陣の練習を手伝ったりしている。
この時期になると、日が暮れるのも早いが、そんな事に構わず、夜の10時くらいまで、殆どの部員たちがグラウンドに残って練習していた。
「よし、今日は終わりにすっかぁ」
「お疲れやな、良いお年を〜」
1年の終わりの挨拶も交え、金串は帰宅の準備をする。すると、金串は珍しく高杉から声をかけられた。
「金串、今日も帰って自主練すんの?」
「ったりまえじゃないすか!高杉さんもやります?」
「おう、久しぶりに付き合うわ」
「ウッス!」
こうして高杉と金串は、約半年ぶりに共に自主練習を行う事になった。
寒空の下、2人並んで白い息を吐きながらひたすら走る。思えば、半年前、高杉は金串のこのペースについていくのがやっとであった。しかし今では、金串のペースに遅れを取らないどころか、並走しながら喋る余裕まで出て来ていた。
努力の賜物である。
「なぁ金串」
「はい?」
「キャプテン、やってくれてありがとうな」
「とんでもないです」
「本当はさ、2年の俺がやるべきことなのに、1年の金串に押し付けちゃって、申し訳ない。
俺に出来る事があれば何でも言ってくれよな」
「高杉さん......」
「うん?」
「気持ち悪いですよ。やっぱり高杉さんはいつも高飛車でいかないと」
「う、うるせ!人が下手に出ればこのやろ!」
「ははははは!」
かつてのレギュラー争いのライバルが、今ではこうして笑いあいながら一緒にランニングを行なっている。金串は嬉しかった。高杉も、本当はチームの事を考えてくれているという事が分かったからだ。
高杉からこのようにはっきりとそれを口に出して言われた事は、初めてであった。
きっと高杉がこの日、金串を自主練習に誘ったのも、自分の思いを伝えたかったからであろう。
金串はそんな良い気分のまま、年越しを迎えるのであった。




