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翌朝、安室高校の各クラスでは、いつもであれば野球の話題を持ちかけてくるクラスメートも、野球部員たちに気を使わざるを得なかった。特に金串のいるスポーツ推薦クラスでは、緊張感が漂っていた。
「(お、おい、なんだか今日の金串こわいな)」
「(シッ!聞こえるだろ!)」
鬼の形相で席にふんぞり返る金串を見て、クラスメートたちはひそひそとささやくように話す。それだけ金串は気が立っていた。
放課後も練習はいつも通り行われたが、部員たちの雰囲気は暗い。本来であればここでチームを奮い立たせるのは金串の仕事だが、肝心の金串は人一倍苛立っているので、どうしようもなかった。
見るに見かねた肘井が、チームメイトたちにゲキを飛ばす。
「おいみんなー!元気出して行こうぜ!」
しかし、チームメイトたちの反応は鈍い。
「やめとけよ、ガラでもない」
「あー、ていうか、肘井がケガしてなければなあ」
口々に勝手な事を言う部員たちを見て、ついに肘井は爆発した。
「おい!どういうことだ!俺だって、ケガしたくてしたんじゃねえぞ!」
まあまあ、となだめに入った金串を制止し、肘井はまくしたて続ける。
「大体よぉ、おめえら気合いが足りねえんだ!
相手の配球に踊らされたのも、こっちの配球を読まれたのも、おめえらが頭カラッポで野球やってっからそんな事になんだよ!」
「んだとコラァ!」
たまらず高杉が肘井に対する怒りをあらわにする。
「やめてくださいよ高杉さん。おい、肘井も失礼だぞ!」
しかし肘井の勢いは止まらない。
「おい、じゃあ言わしてもらうけどな。金串、お前言ったよな。チームのことを考えるって。
お前今それ出来てんのかよ!俺に勇気を与えた言葉は嘘だったのか?チームが落ち込んでる時こそ奮い立たせるのがキャプテンだろ!」
「肘井......」
「それがさ、みんなと一緒になってどんよりしてたら意味ないよ!」
「......よな..」
「あ?!」
「そうだよな!!よく言ってくれた、確かに俺がチームの雰囲気悪くしたらだめだ!目が覚めたよ肘井!!ありがとう!!!よし、お前ら、集合だ!!!円陣組んで気合い入れなおすぞ!
オラァァァァ!オラオラオラ!!!!!
ウッス!!!ウッス!!!」
他のチームメイトは、金串のテンションの代わりように、ドン引きしていた。そしてそれはゲキを飛ばした張本人である肘井も同じ事だった。
「いや、切り替えエグいて」
矢澤が呟くと、ようやくチームメイトから笑いが起こった。
「おい!金串!いくぞー!」
「ウッス!!!ウッス!!!ウッス!!!」
何度も何度も繰り返し円陣を組んだ。こうしてようやく、安室高校野球部に元気が戻ってきたのである。




