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安室高校が藤井高校を圧倒するであろうという大方の予想に反して、安室高校は苦戦を強いられていた。
7回の表が終了した時点でスコアは7-0。櫻井が藤井高校打線に捕まり5点を失い、かわった大田も2点を失ったのである。それに対して安室高校打線は藤井高校のピッチャーを全く打てない。
キャッチャーの巧みな配球に、精密なコントロール。これらに金串をはじめてする安室高校打線は完全に抑え込まれていたのである。
さらに言うと、7回裏の安室高校の攻撃が終了した時点で点差が7点のままである場合、コールドゲームが成立する。
強豪安室高校野球部が予選大会の初戦でコールド負けを喫したとあれば、名門安室高校野球部創立以来、前代未聞の出来事となることは必至である。それだけに、コールドゲームだけはなんとしても阻止し、大逆転での勝利が、金串たちには義務付けられている。
先頭打者は1番の藤井だ。安室高校打線はこの試合、1度も塁に出ていないため、これが3度目のバッターボックスとなる。
今まで球数少なく投球をまとめてきた相手ピッチャーは未だに涼しい顔をしながら、初回と同様のゆったりとしたフォームからボールを投げ込んだ。
カキィーーーン!!
真ん中から低めに変化するスライダーをひっかけ、初球からアウトになってしまう。
あまりにもあっけなくワンアウトを取られ、続く2番の矢澤が対戦する。
「矢澤ー!打ち急いじゃダメだぞ!」
ベンチの忠告も虚しく、矢澤は初球から外野フライを打ち上げる。ツーアウトだ。
最後の1人となってしまうかは分からないが、3番の高杉が屈伸運動をした後、小走りでバッターボックスに入った。
..........ストライク!!
内角高めに入るカーブだ。正確にコントロールされているため、初球から打つ球ではない。
続く2球目。
カキィーーン!!!
真ん中からストンと落ちるフォークを打たされ、キャッチャーフライを打ち上げた。
ゲームセット!!!
なんと、優勝候補筆頭、というより優勝することが当たり前といって良いほどの実力校である安室高校が、初戦で、しかもコールドゲームで、秋季大会の場から姿を消すこととなった。
あまりの珍事に、安室高校応援席は言葉を失う。しかしそれ以上にただ呆然と立ち尽くすばかりであったのは、安室高校ナインであった。
本人たちにとってもこんな屈辱的な敗戦は経験した事がないだろう。ついでにいうと、相手ピッチャーにパーフェクトを達成されての敗戦だ。
安室高校ナインは絶望に打ちひしがれ、しばらくベンチから動く事が出来なかった。キャプテンの金串はベンチを蹴りあげて悔しがった。
監督の石原も椅子にどかっと腰をおろし、足を組んだまま微動だにしなかった。




