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なんと、その公園では肘井が壁当てをしていたのだ。
ビュッ!バン!コロコロ......
ビュッ!バン!コロコロ......
ビュッ!バン!コロコロ......
金串は心の底から驚いた。そもそも、肘井はケガをしているのではないのか。こんなところでこんな事をやっていて良いのか。
肘井は精一杯投げているようだが、以前のような球威はなく、ピッチャーマウンドからキャッチャーまでの距離にもボールは届かない。
意味が分からないので、とりあえず金串はしばらく様子を草陰から見ていた。
「くそっ!」
ビュッ!バン!コロコロ......
ビュッ!バン!コロコロ......
ビュッ!バン!コロコロ......
ビュッ!バン!コロコロ......
ビュッ!バン!コロコロ......
何度投げても、ボールは壁まで届かない。
肘井はやがて肘のあたりをおさえてうずくまった。
「っきしょー!なんでだよぉ!!いてえよぉ!
秋の大会があるんだよぉ!くそぉ!
くそぉ!くそぉ!くそぉ!」
肘井は再び立ち上がり、壁の近くまでいき、至近距離で、物凄い勢いでボールを投げ始めた。
「くそぉ!くそぉ!くそぉ!くそぉ!くそぉ!くそぉ!くそぉ!くそぉ!くそぉ!」
いてもたってもいられなくなった金串は、思わず草陰から飛び出して肘井を止めに入った。
「お、おい!やめろ肘井!治りが遅くなるだけだぞ!いいからやめろって!」
肘井は金串の存在に気付き一瞬たじろいだが、すぐさま今度は落ち着きを取り戻した様子で、拗ねてみせる。
「ああ?なんだ、金串か。なんだい。笑いにきたのかい!夏の大会で肘をぶっ壊して使い物にならなくなったこのギャグみたいな肘井を笑いにきたのかい!」
「まぁまあ、そうやけくそ言いだすなよ。
とりあえず落ち着けよ、座ろうぜ」
感情の高ぶりを隠せない肘井を無理矢理でも座らせ、金串は肘井と向き合おうとした。
「石原監督から言われたよ。治るまではランニング以外すんなって」
「うん」
「だけどよ、今のチームの投手力不足を見て、指を咥えて見てろって言うのかよ!」
これを聞いて、やはりそうだったのかと金串は納得した。肘井がここまで自暴自棄になるのは、チームの事を考えての事なのだ。
だから無理をしてでも自分が投手陣の柱になろうと、石原から止められてもこんなところで練習していたのだ。
一瞬でも、肘井がサボっている可能性もあると考えた事を金串は死ぬほど後悔し、心の中で懺悔した。そして、しばらく黙り込んだ。
肘井にかける言葉を、しっかりと考えるために。




