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変わった大田がなんとか1人を抑え、今度は安室高校の攻撃を迎えた。
多摩川高校の先発ピッチャーは、相変わらず例のサウスポーだ。先頭の左バッターの藤井は、相性を全く苦にする事なく初球の外角ストレートをレフト方向に上手く打ち、ヒットととした。
続く2番も左の矢澤。ここは手堅くいきたいところではあるが、ベンチからの指示は出ていない。そこでとりあえず、初球を見送る事にした。
セットポジションからピッチャーが足をあげた瞬間、藤井は好スタートを切った。
..........ボール!
キャッチャーがすぐさま2塁へ送球するも、悠々に盗塁成功だ。
「ナイスラン!藤井!」
得点圏にランナーを置き、ピッチャーは少し投球に慎重になる。セットポジションから外角低めに投げ込まれた変化球を、矢澤は狙い打ちした。
カキィーーーーーン!!!!!
打った打球は高々とあがり、センターの頭を越える。センター、レフトは必死に追うが、藤井は楽々ホームインし、打った矢澤も快速を飛ばして3塁まで到達した。
1点を返し5-1。それでもまだまだ多摩川高校がリードしている。全く初回とは思えないスコアボードである。
3番の高杉は相手投手から警戒され、バットを1度も振ることなくフォアボールを選んだ。
しかしいくら高杉を警戒しようと、次のバッターは主砲金串だ。ランナーを貯めて金串に回すという、かえって苦しい結果となってしまった。
完全に動揺した多摩川高校のピッチャーは、金串に対してもストレートのフォアボールを出し、続く5番の葉山にも押し出しのフォアボールを与えてしまった。スコアは5-2。なおもノーアウト満塁である。続くバッターは6番の大蔵。対外試合で打席に立つのは、これが初めてだ。
大蔵にとって初めての打席が、絶好のチャンスとなった。
「大蔵だって、はじめてみるね」
「新しいキャッチャー?パワーありそう」
グラウンド外の一般生徒たちも注文している。
そんななか、初球が投げ込まれた。
..........ボール!!
低めに落ちる変化球に釣られなかった。もしこれに手を出していたら、引っかけてダブルプレーとなっていただろう。
大蔵は集中していた。
カキィーーーーーーン!!!!!!
快音をひびかせた打球はレフトをひとまたぎし、やがて柵を越えるホームランとなった。
ホームラン!!
「す、すげえー!大蔵もホームランバッターかよ!」
「安室高校打線強すぎ!」.
一般生徒たちは熱狂するが、それは安室高校ナインも同じことだった。
大蔵はチャンスにおいても一球一球に集中する力がある。その結果がこのホームランであるのだ。
スコアは5-6と、初回とは思えない点数になった。しかしまだまだこれで終わりではない。
この後、2回の守備でも櫻井にかわった大田は多摩川高校打線から滅多打ちを喰らい、こちらも負けじと1発攻勢で対抗するという、いわばノーガードの殴り合い合戦のようなものが繰り広げられたのである。
試合はというと、14-17でなんとか安室高校が勝利したが、課題が山積みであることは自明であるため、全く喜べる勝利ではなかった。




