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9月1日、二学期の学業が再開された。
野球部員たちは一般生徒と会うのは夏の大会以来であったため、知り合いの生徒に会うたびに、夏の大会での話を持ちかけられる。
なかでもスポーツ推薦クラスでは、1年生でありながらも野球部の新キャプテンに就任した金串の話題で持ちきりであった。
「金串!夏の大会ではすごかったね!ホームランも打ってたし」
「流石だよ、しかも新キャプテンになったんだって?2年生を差し置いてすげーよな」
「そうかね」
何度も言うが、金串は中学時代から他人に褒められ続けているため、今さら全く嬉しくないし、むしろ優勝を逃しているため、聞いていて心中穏やかではなかった。
幸い、今日は2学期初の登校日であるため、学校は午前中に終了した。
金串は午後からの練習に備え、皆より早く野球部の部室に向かう。すると、部室の前にはなんと御木本が立っていた。
「あ、御木本さんちわっす」
「金串。改めてキャプテン就任改めておめでとう」
御木本はニコニコしているが、金串はなんとなく嫌な予感がした。御木本が"改めて"という言葉を使ったからには、夏合宿での真実を知ってるかもしれないと思ったからだ。
御木本は笑顔のままスタスタと金串の方に近づくと、なんと金串の左頬をめがけ、右ストレートをかました。
「金串!俺がどんな想いでお前をキャプテンに任命したと思ってんだ!聞いたぞ!一旦はクビになったって!ナメくさってんじゃねえぞ!」
「申し訳ない」
御木本の言う事ももっともであると思った。金串は夏の大会終了後、威勢の良い事を言って御木本を殴った。ところが当の自分は、練習中にふざけてキャプテンを解任されたというのだ。
人に気合を入れたからには、自分に返ってくるのも仕方ない事だ。
「ちゃんとやりますんで勘弁してください」
金串の誠意のこもった対応をみて落ち着きを取り戻した御木本は、咳払いをしながら話し続ける。
「まあとにかくだな、お前、金串には俺だけじゃなくて引退した3年生みんな期待しているんだ。なんとしても俺たちが果たせなかった雪辱を晴らしてくれよ。みんなの期待を裏切るなよ」
「ハイ!がんばりやす!!」
そうだ。御木本ら3年生たちの思いも決して忘れてはいけないのだ。金串はこの後、よりいっそう覚悟を強め、午後からの練習に取り組むのであった。




