71
「青山ァ!ノックしてやるよ!」
「え、金串が?」
「おう、お前守備ドヘタだからな。でもパワーあるから、守備がまともならレギュラーだぜ」
「おお、金串、ありがとう!」
この日全体練習が終わり、各自自主練習を行うなか、金串は青山へのノックを買って出た。
レギュラー争いの相手でもある青山に対して何故そのような事をやってやるのかというと、単に青山の打撃がチームにとってプラスになると考えたからである。
それくらい、さっきの特大ホームランは衝撃的なものであったのだ。
「金串もええやつやな」
そう言って矢澤は素振りをしながらグラウンドを見渡す。すると意外にも、協力して練習しているのは金串たちだけではない事に気づいた。
さっきの紅白戦において2年生に滅多打ちを食った櫻井が、バッテリーを組んでピッチング練習を行っている。
さらに、高杉ら2年生たちも、金串と同様にノックなどを協力して行っているようだ。
部員ひとりひとりが、チーム全体のことを考えて行動するようになってきたのは、もしかするとキャプテンが不在であるのも大きな要因となっているのかもしれない。
これはキャプテンが不在というより、全員がキャプテンであるといった方が相応しいかもしれないと思った。
「あれ、そういえば肘井今日いないな」
矢澤はひととおりグラウンドを見渡した後、肘井の姿がないことに気づいた。
それにしても今日は何かおかしい。何故、石原は肘井に1球での降板を命じたのだろうか。
何故、肘井はこの日、自主練習の場に姿を現さなかったのだろうか。
ケガをしたのかもしれないと思った。だから、石原はそれにいち早く気づき、肘井に登板及び自主練習を控えるよう命じた。そう考えると合点がゆく。
もしこの事が事実であるならば、安室高校野球部にとってかなりの痛手になる事は間違いなかった。投手不足。この自分1人ではどうにも出来ない問題を、チーム全体でどのようにカバーしていくかという事に、我がチームの行方はかかっていると、考えていた。
矢澤はいてもたってもいられない気持ちになり、金串たちの元へと駆け出した。
「よし、青山ァ!金串!俺もノック参加するで!バットよこせや!」
「いやお前守備つけよ!」
「なんでやねん!」
カキィーーーーン!!!
「青山ァ!打球をよくみろー!」
青山を中心とする守備特訓は、夜遅くまで続いた。金串たちは本気だった。




