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試合の相手は多摩川高校だ。甲子園未出場ではあるが、毎年都内ベスト16には入る、近年台頭してきた強豪校だ。
試合は安室高校グラウンドで行われ、もう既に多摩川高校の部員たちは安室高校に到着したようだ。
「気をつけ!れい!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!!!!!」
安室、多摩川、お互いに挨拶を交わし、いよいよ試合が開始されようとしている。
1年生たちはというと、近くのネット裏に集められ、見学するように言われていた。
やがて、多摩川高校のシートノックが始まった。サード、ショート、セカンド、という風に、順に監督からノックが打たれ、ゴロを捕球し、ファーストへと投げ込む形式である。
うい!シャっす!ウェイ!ナイス!
うい!ウェイ!
騒がしさに包まれたシートノックは、かなりレベルが高いものだった。
監督が放つ打球がどんなに強くとも、野手は難なく捕球し、鋭く正確に一塁へ投げ込む。
安室高校の1年生たちは、その様子にただただ
見とれるばかりだった。
「多摩川高校ってあんまり聞かないけど、こんなにレベル高いんだね、金串、知ってた?」
「ん〜知らんなぁ、聞いたことない」
安室高校の1年生たちは俺多摩川高校じゃなくて良かったわ、なんて口々に言う。金串はそれに対し、なんて不甲斐ない事を口にするんだと、情けない気持ちになったが、言うに留まった。
さらに、驚くべき事態が起きたのは、多摩川高校のシートノックが終わり、安室高校の時間が来た時だ。
呑気な1年生たちは初めて生で見るんだ、なんて言いながら安室高校のシートノックを楽しみに待っていたようだ。もっとも、そのレベルこそが彼らに衝撃を与える事になったようだ。
「ういー!シャっす!!!」
御木本のかけ声と共に、シートノックが開始された。多摩川高校のレベルを遥かに凌駕するような、鋭く、素早く、力強い、高速回転のようなシートノックだ。石原が放つ打球は多摩川のものとは比べ物にならなかった。これらに度肝を抜かれた1年生も少なくない。
「へえ、おい矢澤君、君は多摩川高校じゃなくて良かったっていってたけど、安室高校のが全然上手いじゃん(笑)」
金串が茶化すと、矢澤と言われる、さっきの男は決まりの悪そうな顔をした。
そう、これが甲子園常連校、安室高校なのである。