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「え、いやなんでです……」
「いいからはよいけ」
有無を言わせず、石原は肘井をたったの1球で降板させ、代わりに2番手として櫻井を擁立した。
腑に落ちないが、監督の石原が言うので仕方あるまい。肘井はスタスタとランニングを始めた。
金串も不思議に思い、グラウンドの周りを走り出した肘井を少々眺めながら、降板の原因を考えていた。間も無く、試合は再開される。
ノーカウントからのリスタートだ。
櫻井は早速得意のストレートを、内角にねじ込んだ。
カキィーーーン!!
鋭い打球が低弾道ライナーで一、二塁間を破る。ライト前ヒットととなった。さあ、初回ノーアウトから厄介なランナーを出してしまった。藤井はチームきっての俊足を持っているため、自分の持ち味をいかそうと、大きくリードをとっている。
ランナーがいるため球種が絞られた櫻井は、続く2番セカンドの大塚という、夏の大会ではベンチ入りを果たしているがスタメンでの出場が無かった小技使いの男の胸元に、ストレスをクイックモーションから投げ込む。
.........ストライク!!!
!!!
櫻井が足をあげるとすぐに、1塁ランナーの藤井は絶好のスタートを切った。流石である。これは悠々にセーフだろうと、誰もが思ったその時であった。
..........アウトォ!!!
!!!!!
なんと、キャッチャーの大蔵から物凄い勢いでストライク送球が飛び出し、ベース付近で加速する藤井を間一髪でアウトに仕留めたのだ。
「す、すげえ……」
櫻井は思わず声を漏らした。
「な、ナイス!大蔵!!」
「ウッス!!!」
大蔵はニッコリと笑顔を見せながら、あたりを指差す。大柄ではあるが幼げのある整った顔立ち。
今この場において、急に大蔵という男の存在感が増したように思われた。
ランナー無しのワンアウトとして、ワンボールから再び櫻井はストレートを投げた。
今度はインハイに厳しく責めるボール球。バッターの大塚は思わずのけぞった。
続く2球はチェンジアップを使い、タイミングを外しつつツーストライクツーボールと、追い込んだ。
そして最後はスライダーをひっかけさせ、セカンドゴロに打ちとった。
続く3番バッターも難なく打ち取り、櫻井は2年生打線を三者凡退に抑えた。圧巻の投球である。
「櫻井!ナイスピッチング!」
「いや〜、大蔵も凄え球投げるな」
「相当練習したんやろ!」
「まあね(笑)」
大蔵はまたしてもはにかんで見せた。
なんとも爽やかな印象を与える、清々しい男である。
後攻の1年生チームの先頭バッターは、勿論矢澤である。2年生のピッチャーは、ベンチ入りを果たしたことのない右の大田という男だ。正直、どのような球を投げるのか1年生の誰も知らなかった。無理もない。言っては悪いが誰も注目していないからである。また、どんなピッチャーが相手でも絶対に打ち崩すという、確固たる自信が1年生たちにはあった。
それくらい、日々一所懸命に練習に取り組んでいるのだ。




