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その後約10日ほどの間、安室高校野球部の夏合宿の練習内容はランニング、守備練習、バッティング練習という、シンプルなメニューが続いた。一般的に考えて、この内容でも現実性があまりないように見えてしまうほど過酷なものであるが、安室高校野球部員たちはこれらのメニューを余裕でこなすばかりか、それに加えてほぼ全員が自主練習を行っている、という俗人には理解できないような習慣を持っている。
そこで、石原は更に部員たちを刺激しようと、とある作戦を考えついていた。
早速この日、朝6時ちょうど、つまり、部員たちがランニングを終える頃にグラウンドに到着した石原は集合をかけた。
「今日はちょっといつもとやり方を変えてみようか。紅白戦をやろう紅白戦。キャッチャーも見つけたいしな」
「ウッス!!!!!」
部員たちにとって、これは待ちに待っていた言葉であった。毎日毎日体力づくりや基礎練を行い、早く実践が出来ないかと思うようになるほどに、自信がついているようだ。
早速、紅白戦のチーム分けがなされる。なんとチームは2年生対1年生だというのだ。
2年生は、年下である1年生相手に負けは許されない。反対に1年生にとっては、2年生を相手に活躍する事が出来れば、かなりのアピールになる事は間違いない。
石原の巧妙なやり方である。
「負けたチームはグラウンド100週な」
ええーーーーー!!!!!
部員たちの悲鳴に、冗談冗談、と笑いながら石原はベンチにどかっと腰を下ろした。
「さあ、はじめい!」
「ウッス!!!」
守る1年生が守備についた。先発ピッチャーは肘井。受けるキャッチャーは大蔵という、安室高校においてベンチ入り経験のない男だ。肘井の球を受けるのは勿論初めてである。
サードに金串、ファーストに矢澤がつき、他の守備位置につく選手のいずれも、今回は全て石原が取り決めた。
先行の2年生チームのトップバッターはやはり藤井である。夏の大会が始まるまでは、矢澤との熾烈なレギュラー争いを繰り広げていたが、2番の木戸が引退した今、現状においては藤井、矢澤の1、2番コンビが有力である可能性が高い。
そして審判には、登板予定の無い投手陣がつく。そして、迅速に試合はスタートを切った。
野球部員たちが肘井の投球を見るのは夏の大会以来である。そのため、マウンド上の肘井は対する2年生にとっての注目の存在となった。
肘井はノーワインドアップから投球モーションに入り、しなやかに一球目を投じる。
..........ストライク!!!
外角低めへのストレート。流石のコントロールだ。内野陣からは、ナイスピッチ!などと掛け声も聞こえる。
しかしそこで、快調であるはずの肘井のピッチングの出鼻をくじくものがあった。
「タイム!肘井、今日はやめとけ。ランニングでもしてろ」
「えっ?」
あまりに急な石原による降板勧告に、肘井だけでなく野球部員全員が目を丸くさせるばかりであった。




