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「えー、まずは諸君、今大会、お疲れさん。
試合に負けたのは悔しいが、誰のどのプレーが悪かったとか、思いが足りなかったとか、そうゆうことで負けたとは思っていない。
負ける原因は試合によって様々だが、今日ね場合はたまたま相手投手の出来が良かったことくらいだろう。君たちはよく頑張った。それだけは自信を持ってくれ」
安室高校の野球部部室に帰り、3年生にとって最後のミーティングが行われていた。
普段は多くを語らない口下手な石原は、この日ばかりは自分の思いを生徒たちに、特にこの試合が最後となってしまった3年生に伝えたかったようだ。安室高校野球部は基本的に、試合に負けても、他校のようには涙を流す事はない。
そんな事をしている暇があったら、明日へ繋がるように努力をすれば良い。そういった教えが代々受け継がれてきた。
次に、キャプテンの御木本から最後の挨拶が行われた。
「皆さん。これまで、こんな未熟なキャプテンに黙ってついてきてくれて、本当にありがとうございました。みんなの心強いプレーが、僕に勇気をくれました。それだけに......それだけに......あ、あそこ、さ、最後に、俺が...俺が...
あと3mmだけ、芯で捉えられていたら......
俺が集中力を欠いたせいで......
チクショウ......チクショウ......!チクショウ!」
これを聞いたチームメイトたちは、遂に涙を堪えることが出来なくなってしまった。
殆どのメンバーの目から、大粒の涙が流れ落ちる。
「そ、そんな、キャプテンのせいじゃないよ。
俺たちがここまで来れたのは、キャプテンのおかげなんだよぅ......」
御木本はもう聞き入ることすら出来なくなっていた。
「みんなすまん。ほんとうに、ほんとうに、ほんとうに......」
その時だった。
「眠てえ事言ってんじゃねえよ!」
下を向いてうじうじと呟いていた御木本がハッと顔をあげる。声の主はなんと金串だった。
「キャプテンがよぉ、そんな事言ってどうすんだよ!キャプテンはキャプテンらしく、最後まで自信持てってんだよ!最後までテメーについていった事を後悔させんじゃねえ!」
「金串、おまえ、ヒット打ってくれたのに...」
完全に弱気になっている御木本の頬に、金串の右ストレートが炸裂した。
「しゃらくせえよ!キャプテンならしっかりしろってんだよ!これまでみんなで頑張ってきた事はよ、1人のミスや凡退でひっくりかえるような、そんなヤワなもんじゃねえんだ!負けたってよ、思い出は一生モンだよ!」
遂に、鉄の男、金串の目からも涙が零れ落ちる。金串自信も、このチームにかける思いは相当熱いものであったようだ。
「おい、金串、気持ちはわかるがやりすぎだ......」
3年生のうちの1人が発言するや否や、御木本は威勢よく金串の言葉に反応する。どうやら感激を受けたようだ。
「金串!おまえ、そんな風に思っててくれたのか!そうだな、確かにおまえの言う通りかもしれない。よし、この際だから発表しよう」
「ん?」
チームメイトたちは御木本が放った"発表"という言葉に一斉に反応した。
「発表しよう。俺は今日で引退する。そのため、次期キャプテンをこれまで考えてきた。
その発表だ。金串、君にやってもらいたい」
「もちろんです。御木本さん」
御木本が次期キャプテンに金串を指名した事も意外であったが、金串がそれを快諾したというのもまた、衝撃であった。かといって異論はなく、野球部部室内には期待と賛成の拍手喝采が沸き起こった。
金串のおかげでみんなが頑張る気持ちになれた事は、もはや言うまでもなかったからだ。
金串がキャプテンであれば御木本の時と同様に、チームを良い方向に導いていける。学年なんかは気にする事ではない。
安室高校野球部の総意であった。
「金串キャプテン!」
「あいよ!」
「はははははは!!!」
悲しみに暮れていた安室高校野球部に、再び活気が出てきた。石原も後ろで爆笑している。
こうしてここに、金串による新体制がスタートするのである。
御木本キャプテン、2年半の間、本当にありがとうございました。




