表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/115

59

しかし現実はそう甘くはなかった。強豪赤坂実業高校の鍛えあげられた守備力を、決して見くびってはいけないのだ。

左利きのファーストが打球を必死に追いかけ、横っ飛びで打球をノーバウンドで抑えたのであった。これには完全にヒットだと思っていた藤井も、1塁ベースに向かって走る途中、絶望して膝から崩れ落ちた。












「やっちまった......クソ!」











「藤井、ナイスバッチ!」











「藤井さん、ホンマ最高っすわ」











ひとつのアウトを消費してしまった事で落胆し、うなだれながらベンチに戻ってきた藤井に、矢澤をはじめとすりチームメイトたちは労いの言葉をかける。

それが意外だったのか、単純に嬉しかったのか、或いは両方か、藤井は涙を堪えるのに必死だった。












「う、打てなくてごめんよ、矢澤......」










藤井はかすれた声で言った。











「藤井さん!何いうてはるんですか!試合はまだ終わってませんよ!一緒に全国行きましょう!」









矢澤の言葉に、藤井はハッとした。そうだ、試合はまだ終わっていないのだ。自分が打てなかったからといって、試合を諦める奴がどこにいる。そんな思いに駆られ、藤井は思考を180度回転させ、ベンチに身を乗り出した。











「ありがとう!矢澤!そうだな、諦めちゃダメだ!よし、バッターかっとばせ!」













2番の木戸が初球で凡退してしまい、ツーアウトの場面で、金串が打席に立つ。

金串はこの日、1度の出塁すらも達成できていなかったが、それでもまだ、安室高校サイドからの期待は薄れるものではなかった。












1球目.........ボール!











外角に逃げるスライダーに、もはやもう反応すらしない。これは決して手が出なかったのではなく、選球眼の良い、いつも通りの金串が帰ってきたということである。

そしてついに、続く2球目のストレートを金串はコンパクトに打ち抜いた。










パァァーーーン!!!!!









打球はレフト前に落ちるヒットとなった。

さぁ、同点のランナーを迎え、頼れるキャプテン、精神的支柱、安室高校の主砲である御木本が、みんなの思いを背に受け、バッターボックスに入る。

ここでタイムリーが出れば同点、一発が出れば一気に逆転となる。しかし、アウトになれば、甲子園出場の権利を失い、3年生の部員は引退を余儀なくされる。それら全てはこの男にかかっているのだ。球場全体が熱気の渦に包まれ、全ての注目がバッターボックスの御木本に一極集中する。スタンド全員が息を呑んだ。






球場が異様な空気に包まれる中、近衛は最後の勝負だと言わんばかりに、力一杯ストレートを投げ込んだ。

そして何があったのか、ボールがすっぽ抜けたのか、近衛は投げた後、あっ、と呟いた。

なるほど、近衛の豪速球はバッターにとって1番打ちやすいゾーン、つまりど真ん中に入る失投になってしまったのである。そしてそれを御木本ともあろう男が見逃すはずもなかった。












カキィーーーーーーーン!!!!!













快音を響かせ、打球はレフトに向かって大きな弧を描く。











「お、お、いった!」









「やったーー!!!」










「キャ、キャプテン!!!」












安室高校のベンチ内外から、悲鳴に近い大歓声が起こる。打った本人の御木本は祈るように打球の行方を見つめていた。

しかし、ここまで来た赤坂実業高校だ。

レフトは打球を見ることなくひたすらフェンスに向かって走る。全力疾走だ。

そしてフェンスギリギリ手前のところで振り返ったと思うと、おもむろにグラブを差し出した。











「え」










「え、え?」











レフトのグラブにボールは収まり、試合はゲームセットを迎える。

安室高校の、そして御木本ら3年生の、夏がこうして幕を閉じたのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ