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今度、近衛が対戦する相手は安室高校の頼れる主砲、そして精神的支柱である御木本だ。
これまで藤井、木戸、金串と完全に封じ込まれてきたが、キャプテンの御木本ならばこの状況を打開するような一打を放ってくれるのではないかという期待が、安室高校ナインの中で膨らんでいた。
御木本はいつになく集中している。いつものような小煩い御木本はそこにいなかった。
そんな御木本のただならぬオーラに、安室高校のチームメイトですら戦慄を走らせていた。
ところが対戦相手である近衛は表情ひとつ変えない。こちらもやはり、流石である。やはり、金串とともに中学全国野球大会を優勝に導いただけの事はある。ちょっとやそっとの事で狼狽えるわけがないのだ。当然といっては当然であると言える。
かっとばせよ!かっとばせよ!
かっとばせー御木本!
かっとばせよ!かっとばせよ!
かっとばせー御木本!
かっとばせよ!かっとばせよ!
かっとばせー御木本!
応援のボルテージが上がっていく。
近衛は、ワインドアップから投球モーションに入る。その動きに合わせるように、御木本はバットのグリップを強く握った。
1球目..........ボール!
内角にボール1個分、外れたようだ。応援席からはナイスセン!などと声援が送られるが、おそらくボールを見切ったわけではないだろう。
御木本は近衛のあまりの豪速球に上手く反応出来なかった。要するに、手が出なかったのである。
2球目..........ストライク!
今度は肩口から入るカーブ。そのあまりの曲がりように、またしても御木本は手を出す事が出来なかった。
そして続く3球目は、同じくカーブが投げられ、これには何とかファウルで対応した。
ここで御木本は一旦打席を外し、気合いを入れ直す。2度3度素振りを行い、再び打席に戻る。
4球目...........ダァァァァァン!!!!!
ストライク!バッターアウト!
さっき金串に対して投げたような豪速球を、高めに投げぬいた。よって、スイングアウトの三振だ。
速球に反応し、思わずボール球に手を出してしまったことを御木本は悔しがる。
「クソ!」
ベンチやスタンドの仲間たちは呆然とすることしか出来なかった。
甲子園常連校、安室高校のキャプテンで4番、御木本ですら打てないのだ。
「キャ、キャプテンですら、打てないのかよ」
「ま、まじか..........」
「もうこれ......ダメなんとちゃうか」
頼みの綱であったキャプテン御木本の三振を目の当たりにし、安室高校ナインはただただ意気消沈するばかりであった。




