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代わって守りに入る安室高校の先発投手は、1年生で期待の新星、肘井勉だ。

準決勝までは大沢と櫻井による二枚看板で投手運用が行われ、肘井は全く起用されなかった。

それは決勝戦のために温存してきたという事である。というのも、大沢、櫻井、肘井の中で最も石原による信頼が厚いのは肘井だった。

石原は肘井を最も重要な試合で先発させたいと考えており、この日の、赤坂実業高校との決勝戦という試合が最も重要であると判断されたのである。

肘井は入学して間もない頃の、紅白戦で活躍した時と比べて身体つきもひと回り大きくなり、日々の鍛錬によって強靭なスタミナを身につけていた。

そんな肘井がマウンド上に到着し、ゆっくりと一呼吸を置いたあと、投球練習を始めた。

これまでの試合で温存されてきたのと、公式戦の登板がないせいか、肘井という投手は赤坂実業ナインにはあまり知られていないようだ。













「安室高校の先発、櫻井とか大沢じゃないんだな。肘井なんて知らないぞ」











「俺も初めて見た。でもさ、あんまり球も速くないし、大した事なさそうだな。他の2人は準決勝まででバテちゃったんだろ!」












「ははははは!」










違う。赤坂実業ナインは、肘井の特徴をまるで捉えられていない。肘井の投手としての長所は球速ではなく正確なコントロールと多彩な変化球、特にキレ味抜群のスライダーにあるのだ。

しかし肘井は一切そのスライダーを投げる事のないまま、投球練習を終えた。

赤坂実業高校の1番バッターがバッターボックスに入り、1回裏の攻撃が始まった。










1球目..........ストライク!外角いっぱいのストレート









思わずバッターは首をかしげる。それだけ、ギリギリをつくコントロールであるのだ。

しかしそんな肘井の凄さにも気付かず、赤坂実業高校サイドの応援席は、さっきの近衛の圧巻のピッチングの勢いのまま、ノリにのっている。

しかし肘井も百戦錬磨の中学野球のエリートだ。ちょっとやそっとで動じる器ではない。










2球目..........ファウルボール!








今度は低めに落ちるカーブで、バッターのタイミングを外した。

この時はじめて肘井は赤坂実業高校ナインに、こいつはただものではないと認知された。

しかしそれに気づいた時にはバッターにとってはもう遅く、続く3球目は外角に大きく外れていくスライダーで空振り三振にきって取られた。

その時、安室高校ナインの間で失われていた活気がようやく戻ってきた。











「よしナイスボールだ肘井!」












「いいねー球走ってるねぇ!」










続く2番、3番は内野ゴロで打たせとり、良いリズムで攻撃に入れることになった。













「肘井、1年なのにすごいな」











「この大舞台であのたたずまいはカッコいいよね」










「ほんとほんと」










安室高校サイドの応援席もやがて息を吹き返し、応援に熱が入る。

さあ、果たして安室高校打線は赤坂実業高校の若きエース、近衛の豪速球を打ち砕く事はできるのか。

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