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「金串、お前は本当に良くやってると思う」
「な、何ですかいきなり!」
御木本が突然自分をストレートな表現で褒め出した事が金串にとって気味が悪かった。
しかしまた、いつもは厳しい御木本が理由は分からないが自分の事を良く言ってくれた事は、何となく嬉しかった。
御木本は自分でも気持ち悪いと思ったようで、バツが悪そうに頭をポリポリと書いている、
言葉に詰まったようであるが、今度はゆっくりと、ひとつひとつの言葉を自分で確かめながら再び喋り始めた。
「というのも、金串が入部してから、正確には金串がレギュラー陣の練習に参加するようになってから、部員ひとりひとりの個人的な練習時間はだいぶ増えた。それはお前自身のストイックな姿勢をみんなが見ているだ」
「は、はあ」
理解しているのかどうか分からない気の抜けた返事をする金串の顔をしっかりと見つめ、御木本は自分の溢れる気持ちをぶつける。
「以前は練習嫌いだった高杉の打撃が開花したのも、春季大会に優勝出来たのも、1年生たちがこんなに練習熱心なのも、全て金串、お前の影響は大きい。お前は確かに意識はしていないだろうが、お前の野球、いや、努力に対する姿勢は、チームメイトを引っ張る力があるんだ」
「そ、そこまで言っていただけると。どうもありがとうございます。」
御木本は何か言いたいことがあるはずだ。しかしそれは何なのか、金串は理解しかねた。
金串がしっかりと聞いている事を確認し、御木本は遂に核心に迫る。
「知っての通り、石原監督は放任主義だろ?
だから何でも部員の自主性に任せ、勝手に這い上がっきた優秀な選手を起用するんだ。
だから、キャプテンも自分で決めない」
「そ、そうなんですか?じゃあ、誰が決めてるんですか?」
「前キャプテンだ。つまり、次のキャプテンは俺が決める事になっている。部活引退まであと少しのところで、ようやく俺の中で決心がついたよ。金串、言いたい事はもう分かるな?」
「え、え?!」
金串は一瞬、思考停止に追いついた。何故、自分が?よりによって自分が?落ち着いて、まず頭の中を整理するのに間をおいて、金串は自分が聞かなければいけないであろう質問を御木本にぶつけた。
「そんな事言ったって、僕は1年生ですよ?
普通、次のキャプテンは2年生がやるもんなんじゃないんですか?」
「うん。だけどはっきり言って、今の2年にチームを引っ張るほどの強い意識を持ったやつはいない。
だから、敢えて1年のお前にキャプテンの座を渡す事で、2年を触発しようって考えもあるんだ。
そしたらお前自身がまた、浮上してきた2年を指名すれば良い。なぁ、頼む。
この通りだ」
御木本は律儀に頭を下げる。
後輩に頭を下げる御木本など、初めて見た。
それだけ今回の決断は御木本自身の中で大きなものだったのだろう。
金串も、御木本の心意気を無駄にしたくなかった。
「御木本キャプテンのおっしゃることは、分かりました。だけれど、急に言われたもんで......
考える時間をくれませんか?」
それを聞いた御木本は、少し嬉しそうだ。
「本当か!考えてくれるか!勿論だとも!
いつ終わるか分からないが、夏の大会が終わった時にミーティングにおいてお前を指名するから、その時までに考えといておくれ」
「はい。でもキャプテン。ひとついいですか?」
「ん?なんだ?」
「いつ終わるか分からないなんて言ったらダメです!俺が目指すのは全国制覇ですから!」
一瞬何を言われるかたじろいだ御木本であったが、まさかの金串からのゲキに、思わず吹き出した。
「そうだな!よし!やってやるぞ!おい、金串!今日は朝まで素振りだ!!ほら!バットを振りやがれ!」
「ええ〜そんな!全国制覇なんて言わなきゃ良かった!(笑)」
「あ?!なんかいったか?」
「い、いえ!」
2人は楽しそうだ。こうして金串の余計な一言により、御木本と金串の2人は朝までフルスイングの素振りを続けた。
とんだバケモノである。




