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御木本からのあまりに急な誘いに困惑しつつも、金串は付き合う事にした。
御木本がいるからといって何らイレギュラーな動きをするつもりは毛頭なく、金串は御木本と一緒に帰り道を疾走した。
御木本の体力がどの程度のものなのか、普段からの練習を見ていれば十分に分かる。
レギュラー陣たちの先頭をひた走り、決してねをあげる事なくチームを引っ張っていく安室高校キャプテンの勇姿は、底知れぬ体力なしに見せられるものではない。
しかし体力に関しては、金串も全くひけをとらないどころか、体力面において御木本と肩を並べる事が出来るのはこの男をおいて他にはいないといっても過言ではないだろう。
金串はこの日、練習試合、練習、と徹底的に身体をいじめ抜いたにもかかわらず、体力の残っている朝と変わらないペースで帰り道を走る。
疲れた身体に、負荷を掛ける。その疲労感が、金串にとっては心地良くて堪らないものであった。
御木本は流石、安室高校の4番バッターを務めるだけの事はあって、金串がどれだけスピードをあげようと、余裕でそのペースについてきた。
「練習後だっていうのに、凄いな、金串は。
俺も体力には自信がある方だが、お前には敵わんな」
「ははは、何を言ってるんですかキャプテン!
僕の自主練のスピードにそんな涼しい顔でついてこれるのは御木本さんだけですよ!」
「そうか?ははははは!!」
「ははははは!!!」
大きなバッグを背負い、猛スピードで街を駆け抜ける2人。
普通の人であるならば、全力疾走といっても良いほどのスピードで走りながら和気あいあいと話す2人を見て、通行人はさぞかし恐怖心を覚えたに違いない。それだけ、2人の体力は人間離れしていた。
やがて2人は金串御用達公園に着いた。
金串は御木本に一応、説明する。
「僕、毎日ここで素振りしてるんですよ。日付が変わるまで」
「そうなのか、じゃあ、やるか」
「は、はい」
今まで、自分の練習方法を発表したいずれもの相手は、この事に過剰に驚いてきただけに、御木本のあまりに素っ気ない反応が金串にとっては意外であった。
しかしながらそれもそのはず。
御木本は以前、高杉と金串の自主練を覗き見しているからだ。もっとも、御木本はそれをわざわざここで打ち明ける気にはならなかった。
ブン!ブン!ブン!ブン!ブン!ブン!
ブン!ブン!ブン!ブン!ブン!ブン!
2人は黙々とバットを振り続いた。ただひたすらフルスイングし続け、静かな夜の公園にはブンっという風を切る音だけが暫くの間なり響いていた。
「おい、金串。そろそろ0時だ」
「あ、本当だ。おつかれっす、キャプテン!」
金串は帰宅しようとしたが、御木本が呼び止める。
「ああ、ちょっと待ってくれ、実は、今日はお前に大事な話があってきたんだ」
「大事な話、ですか......?」
「おう。まぁそこに座って話そうや」
そう言って2人は小さな公園の、小さなベンチに腰を下ろした。
金串は御木本の言う大事な話が何なのか、たずねずにはいられなかった。
「それで何でしょうか。大事な話とは」
「うん」
御木本はついに話を始めた。




