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見物に集まっている一般生徒の注目は、マウンド上の櫻井に注がれた。
それもそのはずだ。櫻井は春季大会では勿論ベンチ入りはしておらず、対外試合、すなわち、一般生徒の前にプレイヤーとして現れるのは初めてなのだ。
「櫻井って誰?1年?」
「1年生で、今日が初登板らしいよ」
「へえ、そりゃ期待大だな。なんてったって、1年の内に試合出るのなんて金串くらいのもんだったからな!」
「そうそう、頑張れー櫻井!」
「頑張れ頑張れ!」
一般生徒たちの声援を受け、櫻井のアドレナリンが高なる。
櫻井自身、安室高校に入学するだけの事はあって、さぞかし数々のプレッシャーを乗り越えてきた事だろう。そんな櫻井が、たかが練習試合ごときのプレッシャーに負ける訳がない。経験豊富な選手たちが集う、それが甲子園大会常連校、安室高校野球部なのである。
さて、そうこうしているうちに多摩川高校の1回表の攻撃が始まった。
櫻井は左手につけたグラブをぱんっと叩き、ノーワインドアップの投球に入る。
そして、190センチはあるであろう長身から思い切り腕を振りおろした。
1球目..........ストライク!
「ナイスボール!櫻井!」
サードの金串が元気よく叫ぶ。それに対して櫻井はニッと笑顔を見せた。
櫻井の投球を初めて目の当たりにした一般生徒は、驚きの声をあげる。
「す、すげータマ!!」
「ほんとほんと!これが1年生だって?!
今年の新入部員は粒ぞろいだな!」
安室高校野球部グラウンドは練習試合とは思えないほどの盛り上がりを見せる。
櫻井は2球目を外角ボール1個分外し、3球目にスライダーを投げ、1塁側にそれるファウル。
ツーストライクワンボールとしたところで、ウイニングショットを投げ込んだ。
..........ストライク!バッターアウト!
「っしゃぁぁぁぁ!!!」
櫻井は拳を握りしめ、闘志溢れるガッツポーズを見せる。
それによって安室高校ナインは盛り上がった。
「ああいう闘志をむき出しにするタイプも良いよな。なぁ、御木本」
「はい。そうですね監督。ああいうプレイを見せることがチームの雰囲気を良くします」
「その通り」
石原はご満悦な様子だ。
確かに石原や御木本の言う通り、春の頃よりもチームの雰囲気が明るくなって来ているかもしれない。
チーム全体に充満する心地良い緊張感と、明るいムード。
それらは強いチームの証であるように思えた。
櫻井はその後もキャッチャー松本の配球通りに気持ちのこもったボールを投げ込み、多摩川高校打線を三者凡退に打ち取った。
雄叫びをあげダッシュでベンチに戻る櫻井を、ナインはハイタッチで迎える。
一般生徒たちからは拍手喝采が沸き起こっていた。
とても良い雰囲気で、完全に流れが向いている中、安室高校の攻撃が始まる。
さっき櫻井が作りあげた盛り上がりがなんとなく残りつつある中、これまた一般生徒の知らない、1番バッターの矢澤が打席に向かう。




