37
金串ら1年生が安室高校に入学式してから、早くも2ヶ月の月日が経とうとしていた。
この日は日曜日で、練習試合を行う予定だが、相手はなんとまた多摩川高校である。これで3度目だ。
監督である石原は練習試合に相手チームなんて関係ないというが、野球部員の中には、ひょっとすると口下手な石原は色々な高校と交渉するのが嫌なのではないか、という疑念を抱く者も少なくはなかった。しかしもっとも、その事を口に出して言おうとする者は、キャプテンの御木本を含めて誰1人としていなかった。
試合は12:00から安室高校野球部グラウンドで行われる。よって昼前には既に、安室高校の一般生徒たちが100人以上、この日の試合を見物しようとグラウンドの外に集まっていた。
試合前のミーティングで、監督の石原に見守られながら御木本はいつも通り仲間たちにゲキを飛ばす。
「よし、そろそろ1年生も対外試合に慣れてきた頃だろう。今日もいつも通りのプレーを心掛けるように。いいな!」
「ウッス!!!」
「ああ、それと櫻井。初先発だからってかたくならないようにな!」
御木本は微笑みながらこの日初先発の櫻井にアドバイスを与える。
「は、はい!」
その一部始終を石原がベンチに座り、ニコニコしながら見ていた。そんな石原が発表したオーダーは以下の通りだ。
1番 ファースト 矢澤
2番 セカンド 木戸
3番 レフト 高杉
4番 ショート 御木本
5番 キャッチャー 松本
6番センター 葉山
7番 サード 金串
8番 ライト 藤井
9番 ピッチャー 櫻井
いつもはクリーンアップに入っている中村と佐々木は、今日は休養だ。その代わりに3番に高杉がレフトとして3番に入り、キャッチャーの松本が5番を打つ。
矢澤は、この試合、敢えてトップバッターに起用されることで出塁能力を試されているらしい。これはいわば、現1番の藤井と、新生1番の矢澤との競争なのだ。これで矢澤の出塁能力が評価されれば簡単で、矢澤が1番バッターとしてレギュラーになるのである。
石原とは、そういう監督だ。実力以外のあらゆる要素は考慮に入れないのだ。
さらに、見物に来ている一般生徒たちを興奮させたのは、高杉の3番レフトでの起用だ。彼らにとっては先日の優勝決定サヨナラホームランが印象強く、高杉という男は校内においてヒーローとなっていたからだ。
幸い高杉は守備ね技術が高く、身体能力もずば抜けているため、本職のサードではなく、ユーティリティプレーヤーとしてのポジションも期待されているのだ。
よって、この練習試合は1年生にとって、そして金串にとって、さらに、チーム全体にとって重要な試合であるという事は間違いなかった。
プレイボール!!!!!
さあ、審判役の1年生の大きな掛け声と共に、安室高校一般生徒による注目の中、安室高校対多摩川高校の練習試合が開始された。




