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5月も半ばに入ろうとしていた。
春季大会や石原による1年生ベンチ入りメンバー選別テストなどを経て、金串ら野球部員はよりいっそう、校内でも一目置かれる存在となっていた。
5月に入ってからは、1年生の場数を踏ませるためやレギュラー競争のため、土日の休みには練習試合が行われていたが、それを見物に来る校内生も、日に日に数を増していった。そのおかげで、月曜日の朝はいつも、クラス内では週末の野球部の練習試合の話題で持ちきりだった。
校内でますます注目を集める存在となったにもかかわらず、金串はまるでマイペースである。
眠たければ授業中であろうが構わず机に突っ伏し、クラスメイトに笑われても全く気にしない。しかしそんな金串の図太い精神こそが、今日における金串の姿を形成したとも言える。
もっとも、図太い金串は中でも例外で、ベンチ入りを果たした他の3人の1年生は浮足立たずには居られないようだ。
「もう、ホンマに。ダルいて。昨日練習試合に俺がはじめた話何回されんねん。しんどいわ〜」
「ほんと、それな。俺も、今日少なくとも100人くらいに三振とった話されたわ。本当に勘弁しろっつーの」
「ははは、同感だ」
放課後、練習が始まる前にストレッチをしながら愚痴をこぼす3人の1年生であったが、その表情を見るとまんざらでもないどころか、むしろかなり嬉しそうだ。
そんな3人の浮かれ話を聞いてか、御木本が現れた。
「おい、お前ら。ベンチ入り出来たからといって、浮かれるな。浮かれていると、すぐさま他の1年が突き上げてくるぞ」
「は、はいキャプテン」
御木本は続ける。
「こないだの高杉、見ただろう。あれは、金串にレギュラーを取られてから相当練習しているに違いないよ。お前らの場合だって、残りの1年だけじゃなくて4人分、ベンチから外れる先輩たちだっているわけだから、うかうかしてられんと思うがな。
見てみろ。その辺金串はよく理解できているよ」
御木本が指差した先には、かなりの猛スピードでグラウンドを走り回る金串の姿があった。
3人はそれを見て、頭に衝撃が走った。
「はい。そうですね、御木本キャプテン。俺もベンチ入りを死守するため、一所懸命頑張ります」
「俺もです」
「俺もです」
「よし、その心意気だ」
御木本に背中を押され、肘井、櫻井、矢澤の3人は金串の後を追うのであった。
金串のあくまでもストイックな姿勢こそが残りの1年生、それだけでなく、野球部全体に良い影響をもたらしていることをひしひしと感じ、御木本もよりいっそう気合いが入るのであった。
「ほら、2、3年!俺たちも一年坊主に負けてられねえよなあ!頑張っていこうぜ!!!」
「ウッス!!!!!」
こうした高ぶる雰囲気の中、夏の甲子園までの約2ヶ月に及ぶ今までにも増した過酷な練習が幕を開けるのである。




