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「っしゃーす!」
一二塁間にノックが放たれる。もうほとんどセカンドに近い打球を、矢澤は懸命に追う。
幸い左利きである分、何とかボールを捕球し、バックホームをした。すると今度は、1塁線に強烈なゴロが飛んでくる。
矢澤猛ダッシュで打球を追うが、間に合うかどうか微妙なタイミングである。そして一か八か、横っ飛びで見事にボールをキャッチし、すぐさま体勢を整え、ホームに投げた。
なんとか矢澤はひとまず自分の出番を乗り切ったのである。
さて、次の石原のターゲットはショートであるようだ。
一方、ランニングをテストと位置付けられている投手組は、キャプテンの御木本に見守られながら、もう既に10周ほど、グラウンドを走っていた。
安室高校野球部に入部するだけの事はあって、流石にねをあげる者はまだいなかったが、15周、20周と走るうちに、ペースが落ちてくる者もいた。
投手組の先頭を走っているのは、肘井と櫻井だ。この2人は、どうやら体力面において、並々ならぬ力を秘めているようだ。
「はぁ、はぁ、おい、肘井」
「はぁ、はぁ、はぁ、なんだよ櫻井。おまえ、体力あるなぁ、」
「こっちのセリフだよ、はぁ、はぁ、はぁ、
でも、絶対に負けないからな」
「はぁ、はぁ、俺だって」
数十周した。実際に何周走ったか、詳しい事は櫻井も肘井も覚えていない。
この終わりの見えない戦いを生き延びるのに必死だからだ。
そしてペースを緩める事すらしないのは、彼らのプライドのせいだろう。
野手、投手、と共に、過酷な選別テストをくぐり抜けて見事にベンチ入りを果たすのは、一体誰になるのだろうか。




