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いっちにっ!さんしい!いっちにっ!さんしい!
いっちにっ!さんしい!いっちにっ!さんしい!
先の東京都春季大会において見事優勝をおさめた安室高校野球部は、前にもまして練習に一所懸命取り組むようになっていた。
勝って兜の緒を締めよとはまさにこの事である。というのも、最終回に高杉がサヨナラホームランを放っていなければ、試合の行方はどのようなものになっていたか分からない。
さらに、たまたま今回は味方の投手陣が好調だったから良かったものの、近衛のあの恐るべきスタミナを考慮すると、あれ以降全く打線が振るわず負けていた可能性も高い。
試合の場数をこなす事、エースピッチャーの擁立、打撃の向上、そして金串や近衛などの新戦力を発掘する事が、現在の安室高校にとっての課題だという結論に至っていた。
しかしながら春季大会を終えて1週間が過ぎようとしている現在においても、金串を除く1年生たちはレギュラー陣の練習に参加する事は許されていなかった。
「あーあ、暇やな、こないだは試合であれだけ面白かったってのに」
「でも高杉さん、凄かったよな。石原監督の言う、特別扱いはしないって、結局はああいう事なんだろうな」
「ああ、たしかにな。でも特別扱いしないいうんやったらさ、俺たち残った1年たちにももっかいチャンス与えて欲しいわ!」
雑用ばっかりでつまらん、と捨てゼリフを吐き捨てながら、嫌々にボールを拾いあげる矢澤。
それを見て肘井はうんうんと頷く。
たしかに、矢澤のいう事ももっともだった。
入部当初より、1年生全体としての体力は格段に上がっているはずである。それらをテストするのは、安室高校にとって丁度良いタイミングであるように思えた。
そんな矢澤たちの愚痴が聞こえた訳では勿論ないが、石原が丁度よいタイミングで1年生に集合をかけた。
「1年生集合」
「ウッス!!!」
石原の元に70人の1年生たちが集合する。勿論、自分たちがどのような理由で呼ばれたのかは、知るよしもなかった。
「この間の春季大会を見て分かったと思うが、うちにはそろそろ1年生の新戦力が必要だ。よって、今からテストを行いたいと思う」
「テスト、ですか?」
1年生の中では1番、石原に顔のきく金串が石原の言葉をおうむ返しする。
石原はそれに対してうん、と頷き、マスコットバットを持ちだした。
「ノックだ。俺が今からノックしてやるから、好きな守備につけ。俺のノックに最後までついてこれるやつがいたら、ベンチに入れてやる」
「ウッス!!!」
1年生たちは大いに喜んだ。遂に自分たちにもチャンスが巡ってきたのだ。
「あの、僕もですよね」
「うん、金串。お前もだ」
当然だ。石原の辞書には、特別扱いという言葉などない。
1年生は、グラブを持ち、ダッシュで各々の守備位置についた。
その様子を、上級生たちは戦々恐々と見つめていた。
「今年ももう、そんな時期か。俺たちにとって脅威になる存在は出て来るのかな。こえー」
「まぁ見てようぜ。石原監督のノックに、果たして今年の1年生がどれくらい食らいついていけるか、みものだな」
御木本をはじめとする上級生たちは、どうやら毎年このノックをくぐり抜けてレギュラーを掴み取ってきたようだ。
上級生が見守る中、石原のレギュラー選別ノックが開始された。




