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「ついに来たか」
「まさか、流石に登板はないだろうと思われたが、してやられたな、こんな事なら金串にやつの情報を聞き出しとけばよかったぜ」
「まぁ、近衛のピッチングはやつの中学時代から知らない奴はいないし、大丈夫だろ」
「そうだな」
安室高校のベンチ内がざわつく。近衛の奇襲登板に動揺を隠せない安室高校ナインに、すかさず御木本は1塁ベース上からゲキを飛ばした。
「おい!みんな!何時ものように自分たちの野球をするだけだぞ!」
「ウッス!!!」
チームメイトたちは御木本の気の利いたアドバイスによって落ちつきを取り戻したが、金串はベンチに座りながら、かつての戦友と初めて対戦が出来るという喜びに打ち震えており、御木本の言葉などまるで聞いていなかった。
ノーアウトランナー1、2塁でバッターは5番の佐々木。ダブルプレーなどが無く、1人でも塁に出れば自分に打席が回ってくる。それもチャンスで回ってくる可能性が高いのだ。
金串はもう既に近衛と対戦する準備を始め、バッティンググローブをはめた手でバットを握り締めたまま、ベンチに腰掛けていた。
「おい、矢澤!こんな時こそ、応援だ!
俺たちも応援して、チームの力ななろうぜ!
チームの良い流れをここで断ち切られてたまるかってんだ!」
「せやな!俺ら1年に出来る事は、応援でみんなを後押しするくらいだ!おい、みんな!チャンステーマや!」
打て!!!打て!!!打て!!!打て!!!
打ってー打ってー打ちまくれ!!!!!
応援のボルテージがいっそう上がる。
熱狂する安室高校サイドとは対照的に、マウンド上の近衛は妙な落ち着きを放っていた。
周りの雑音など耳に入らない、といった様子で、ランナーを牽制しながらセットポジションで投球を始めた。
1球目..........す、ストライク....!
?!?!?!!!
あまりの豪速球に、審判までもが後ずさりし、球場は一瞬静まり返る。
「な、なんだあのタマは。150キロくらい出てるか?」
「いや、もっとかもな。近衛のやつ、中学大会の頃よりも球速が格段に上がってやがる。むりだ、う、ウソだろ......」
チームメイトのこの発言に、安室高校のベンチはさっきとはうってかわって沈黙してしまう。
いつもならばここで、キャプテンである御木本がゲキを飛ばすのであろうが、当の本人は現在、1塁ベース上にいる。
金串はここで、自分の今の高ぶる闘志をチームメイトに共有するのは今しかないと思った。
「うい、チャンスだチャンスだ!積極的に打っていこうぜ!!!」
!!!
「そ、そうだよな!俺たち、勝ってるんだし!
相手は一年坊主だ!大したことないさ!」
「そうだそうだ!佐々木かっとばせー!!」
そして、ベンチの活気が応援席にも伝わり、安室高校サイドは再び熱気を取り戻した。
金串のゲキを間近で見ていた石原は、ふっと嬉しそうに微笑んだ。




