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さあ、お互いのシートノックが終わり、試合開始の挨拶が交わされる。向かい合う赤坂実業高校のナインの中に、近衛の姿があった。
金串はつい目を向けていると、金串に気づいた近衛は少し笑顔を見せた。どうやら向こうは、金串が安室高校に在籍している事をしっかりと知っているようだ。
久々に中学時代の仲間の笑顔を見ると、自然と良い思い出がたくさん思い出される。
みんなで遅くまで練習した思い出や、上手くいかない時に励まし合った思い出、そして何より1番の思い出は、全国大会での優勝を成し遂げた思い出だ。考えただけで胸が熱い。
そんな思い出に浸っているうちに、御木本に頭を小突かれた。
「おい、どうした!挨拶はとっくに終わったぞ!早くベンチに戻れ!声出しだ!」
「ウ、ウッス!!!」
そうだ。そんなかつてのチームメイトも、今やもう対戦相手。今度、新しい思い出を一緒に作っていくのは、御木本をはじめとする安室高校ナインだ。そのためには目の前の1試合を全力でプレーしなければならない。
「っしゃー!!!」
金串は、声出しとともに気を引き締めた。
先行は安室高校。どうやら御木本の言う通り、近衛は先発ではないようだ。それにしても東京都の大会で決勝戦までコマを進めるチームだ。
先発ピッチャーが近衛ではなかろうが、簡単に打ち崩せる相手ではないに決まっている。
現に、投球練習で放る球も大したものだった。
しかし、そんな金串の見立てとは裏腹に、この日の安室高校打線は好調だった。まず、1番の藤井がセンター前に快音を響かせ、2番の木戸が送りバント。続く3番の中村は追い込まれたが、粘りながらもレフトフェンス直撃のタイムリーツーベースヒットを放った。
安室高校が先制し、スタジアムは熱狂する。特に三塁側の応援席は、お祭り騒ぎといってもいいほどの盛り上がりを見せていた。
1-0、ノーアウトランナー2塁においてバッターは主砲の御木本だ。
審判のプレイの掛け声の合図すら搔き消すほどの安室高校野球部員たちの応援は、安室高校野球部に連帯感を持たせるものであった。
1球目..........ボール!
2球目..........ボール!
3球目..........ボール!
ピッチャーは、明らかに安室高校のムード、そしてバッター御木本の威圧感に押されている。
打て!!打て!!打て!!打て!!
打ってー打ってー打ちまくれ!!!
打て!!打て!!打て!!打て!!
打ってー打ってー打ちまくれ!!!
4球目は大きく外れ、ボール。審判がフォアボールを合図したと同時に、赤坂実業高校の監督がベンチから出てきた。
なんと、もう投手交代をするようだ。
そして金串は、投手交代のアナウンスを聞くや否や、全身に武者震いが起きた。
「ーーピッチャー、変わりまして近衛くん」
スタジアム中に、どよめきが起こった。




