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「金串君、ついに対外試合に出たんだって?!
凄いよな、1年生で春から試合にでれるなんて!」
「いやぁ、ピッチャーの相性が良かったから出してもらえただけだよ」
「それにしても凄いよ!!」
「ほんとほんと!何せウチの野球部で春季大会前から対外試合に出たのはこれが初めてらしいからね!」
「えーそうなの!マジかよ!」
「すごいすごい!」
「俺、サイン貰いたいな!」
たった1打席出場しただけなのに、クラスは金串の話題で大盛り上がりだ。
授業を受けている間はずっと居眠りしている金串だが、休み時間になるとまた騒がしいクラスメイトたちに起こされてしまう。
自分の事を褒めてくれるのは勿論悪い気はしないが、たった1打席、四球を選んだくらいでこれほどまでに大袈裟に騒がれるのは、自身としては甚だ心外な金串であった。
放課後、未だに騒いでいる愚かなクラスメイトたちを押し退け、金串は逃げるように野球部グラウンドへ向かった。
「いやーー、大変だったよ」
この事を矢澤に話すと、矢澤はすぐさま吹き出した。
「ははは!四球を選んだくらいでそれは、言われてみれば確かに大袈裟やな!でも、いうて、凄いことなんやで?わかってるん?自分」
「う〜ん」
大阪大会での実績を引っさげここにやってきた矢澤は分かってくれると思ったが、どうやらこやつもクラスメイトと同じ気持ちらしい。
「おい!春季大会も近いんだ、今日も引き締めていくぞー!」
「ウッス!」
今日も過酷なランニングに、退屈な雑用を5時間ほど行い、解散した。
近頃では、金串の異常な出世スピードに影響されてか、自主練する部員が1年生たちの中でも増えてきていた。
「じゃ、俺帰るから。おつかれっす!」
金串はいつもの独自の自主練があるため、グラウンドには残らずにすぐ帰宅する。
その事を知らない先輩たちは、練習もせずにセンスだけで試合に出たと思っているらしく、憎まれ口を叩く。中でも過激な者が、練習試合で代打を出された高杉である。
「チッ。あのヤロウ。俺たちがこんなに残って練習してんのに、いっつもいっつもすぐ帰りやがって。それでさ、レギュラー奪われたら溜まったもんじゃねえやな」
先輩の怒り心頭に、1年生たちは何も言う事が出来なかった。
「まぁ、気持ちはわかるが高杉、ここはお前がもっと練習して、金串の奴を見返してやれば良いじゃないか。付き合うぜ。」
「は、はい!御木本キャプテン!」
こうして高杉、御木本をはじめとする居残り組たちは、レギュラー維持、またはレギュラー奪取のために必死に自主練習に励むのであった。




