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「金串、サードに入ってみろ」
遂にこの時が来た。ボール拾いに従事する1年生ばかりではなく、守備についているレギュラーの2、3年生までもが自らの耳を疑った。
部員全員が、唖然とするほどの衝撃が、安室高校野球部に走ったのである。
「はい!!!」
突然の抜擢に臆する事なく、金串は嬉しそうに返事をし、グラブを持って守備位置に向かおうとする。それに待ったをかけるのは、元々サードのポジションについていた上級生だ。
「ま、待ってください、監督。僕はどうすれば良いでしょうか」
「交代で守れ。競争だ、競争。」
石原は冷酷に言い放つ。これには周りのレギュラーたちも唖然としていた。無理もない。安室高校野球部は、2、3年生の体力に追いつけないため、1年生が春の、ここまで早い段階で雑用ではない、しっかりとした練習に参加できた事など未だかつてないのだ。
この時、サードを守っていたのは2年生の高杉。
彼も2年生でレギュラーで抜擢された、優秀な選手だ。高杉はうなだれながら金串の後についた。
金串は石原と高杉に向かい挨拶をして、腰を下ろし、グラブを構えた。
「バッチこ〜〜〜い!!!」
「ウッス!!」
「ウッス!!」
石原はノックを再開した。金串は石原の期待に応えんとばかりに一所懸命なプレーを見せた。
石原が放つどんなに速く鋭い打球にも食らいついて捕球し、正確な送球を心がけた。
なるほど、石原が初めの挨拶の時に言っていた
"特別扱いはしない"とは、この事だったのかと、金串は大いに納得した。
石原のこの思い切った抜擢が、他のレギュラー陣を刺激した事は言うまでも無い。御木本をはじめとする内野陣、外野陣、なかでも危機感を覚えたのは、サードの高杉だ。自身も先輩からレギュラーを奪った経験があるだけに、今度は自分がポジションを取られる訳にはいかないと、よりいっそう懸命にプレーした。
更に、金串がレギュラー陣の練習に加わった事は、雑用ばかりで腐りかけていた1年生たちにとっての発奮材料にもなった。
上手くなればもしかしたら自分もレギュラーになれるかもしれないーーーーー。
そういう思いが、下級生たちをやる気にさせた。
「やれやれ。金串に先を越されちゃったな」
「ホンマにな、あいつすごいな。でも俺らも負けてられないよ!!!」
「ったりめえだろ!はい!!!」
「ん???」
「肘井勉、今日は居残り自主練します!!」
「俺も!!」
「俺もだ!」
俺も、俺も、と、皆がやる気を出し、この日の安室高校野球部グラウンドは夜遅くまで素振りの音が止まなかった。




