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この年も例年に負けず劣らず、東京都営球場には何万人もの観衆がつめかけ、灼熱の炎天下の中、熱気の渦が巻いている。
そんな中、東京都夏季予選大会の開会式が幕を開けようとしていた。
ただ、ひとつ例年と異なるとすれば、開会式に昨年の優勝旗を持って最初に入場するのが、安室高校ではなく赤坂実業高校であるという事だ。
赤坂実業高校のキャプテンを先頭に、近衛らナインが堂々たる入場を決める。その自信満々な態度に、観衆からは拍手が送られた。
安室高校野球部にとって、これ以上の屈辱はない。本来であるならば、開会式に優勝旗を持って入場するのは安室高校のキャプテン、つまり金串巌でなければならないからだ。しかしそんな事は赤坂実業高校にとっては関係なく、彼らは嬉しそうに、昨年の喜びを思い出し、再び噛みしめるように、東京都営球場に入場した。
そしてそれに続くのは、昨年度準優勝の安室高校だ。キャプテンの金串を先頭に入場するが、赤坂実業高校の自信のある面持ちとは多少異なり、皆、殺伐とした雰囲気を醸し出している。
それでもやはり伝統的強豪に送られる拍手は、小さなものではなかった。
キャプテンの金串は前を進んで行く赤坂実業高校ナインを鬼の形相で睨みつける。昨年の雪辱を晴らすべく、今の時点で既に戦いは始まっているのだと言わんばかりだ。
キャプテンがこういった態度であるとその雰囲気はチームメイトにまで蔓延し、安室高校ナイン全体に復讐の気運が高まっていた。
さて、100校を超えるチームが全て入場し終えると、連盟長からの挨拶やら選手宣誓やらが行われ、なんとも緊張感のある開会式は幕を閉じた。
開会式を終え、球場の外へ出た安室高校ナインは、昨年度と同様、その場で円陣を組む事にした。
「オイ!!!今年こそ赤坂実業をぶっ潰して優勝だ!!!そして最終的に日本一を、掴みとるんダァァァ!!!!!」
「ウッス!!!!!」
物騒だな、という周りに居合わせた一般人の呟きにも全く構う事なく、安室高校ナインはあまりに力強く、あまりに気合いの入った円陣を延々と続けた。
「日本一を掴むのは、だれダァ!!?」
「安室高校ダァ!!!」
「っしゃー!!!頑張ろうぜ!!!」
ウッス!!ウッス!!ウッス!!
ウッス!!ウッス!!ウッス!!
ウッス!!ウッス!!ウッス!!
ウッス!!ウッス!!ウッス!!
円陣を終えると、これまた昨年と同様、東京都営球場からだいぶ離れた安室高校まで、彼らは全力疾走をもって駆けていく。
そしてさらに昨年と同じ事に、側からその様子を見ていたのは、昨年よりさらに、ひとまわりもふたまわりも大きくなった近衛であった。
近衛もまた、安室高校ナインの気合いを目の当たりにすると危機感にかられたようで、おもむろに何処かへ駆けて行った。
さあ、夏の東京都大会が幕を開けた。




