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安室高校エースピッチャー肘井勉の完全復活を目の当たりにした今居は、この頃肘井を完全に崇拝していた。今まで嘲笑の対象であった肘井は今や最も尊敬する存在となり、以前からその肘井が言っていた通り、走る事をとりわけ重視している。今では文句を言わないどころかむしろ積極的にランニングに励んでいる。
これほどまでに清々しく掌を返す者も珍しいと、櫻井ら他の投手陣たちは半ば呆れ返るが、基本的に図太いこの今居という男はそのような事には一切興味を持たないのだ。
「お、おい、はぁ、はぁ、今居、まだ走るのかよ、はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、櫻井さん何言ってるんですか!
もうへばったんですか?!ランニングしないと一流にはなれませんよ」
「はぁ、はぁ、はぁ、ったく、極端なやつだ」
後輩がへばらない以上、いくらやめたくても上級生が先に終わりにするわけにはいかない。
それに関しては櫻井ら他の投手陣、上級生には意地とプライドがあった。しかしながら、今居の体力は凄まじいものがあった。
今居は一度でもやる気を出すと、とことん突き詰めるタイプなのであろう。そのストイックさに櫻井はおろか、ランニングを勧めた張本人である肘井ですら付いていくのに四苦八苦しているくらいだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、お、おい肘井、お前がランニングは大事なんて、はぁ、はぁ、言い出すから、あいつどうにかしろよぉ」
「はぁ、はぁ、すまん、俺も今居がまさかあんなにやる気を出すとは。はぁ、はぁ、そんなにこないだの俺のピッチング、凄かったかな」
「はぁ、はぁ、うるせっバカやろ、はぁ、はぁ、 」
「!!!」
バタン………!
櫻井が脱落した。足がもつれ、そのまま地面に突っ伏した。なんと、今居は体力面において既に櫻井を追い抜かしたのである。当然、櫻井は悔しさに駆られた。悔しさに駆られ、意地になって体力づくりに励むのであった。
今居に触発され、今まで以上にランニングに全力を尽くす上級生は増え、チーム内競争はますます激しくなっていった。これも全て、肘井の復活のおかげである。肘井がエースピッチャーとしての復活を果たした事によって、今居が肘井に憧れて練習熱心になり、下級生に負けるわけにはいかないと、他の上級生たちもやる気を出す。
チームにとってこれほどの好循環が生まれるとは、肘井本人も予想だにしなかったであろう。
しかし丁度良い。勝って兜の緒を締めよというように、優勝したからといって気を緩める事なく、さらなる飛躍を目指して日々精進していくという事が、何より大切な事であるのだ。
これがしっかりと出来ている安室高校野球部は、来るべき夏の大会に向けて着実に一歩ずつ前進していく事だろう。
いちにっ!いちにっ!いちにっ!
いちにっ!いちにっ!いちにっ!
いちにっ!いちにっ!いちにっ!




