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1回表、先行である東京渡辺高校の1番バッターが右打席に立つ。体型はガシッとしているものの、はっきり言って身長は低い。
長打の警戒は必要ないように思われた。
しかし、油断は禁物。キャッチャーの大蔵は、
しまっていこうぜと、守備につくナインに向かって大声を張り上げる。それにウッスとこれまた大きな声で返事をするレギュラー陣。
しまっていこうぜという言葉とは裏腹に、外野は前進守備をとっている。タッパのないこの1番バッターには到底我が先発ピッチャー、今居の球を飛ばす事は出来まいという邪念の現れである。
今居は歓声を背にして、キリッとしたフォームからまずはストレートを、内角に切り込んだ。
カキィーーーーーン!!!!!
バッターは初球から手を出す。内角の難しいボールを、上手く腕を畳み、腰を鋭く回転させて叩かれたボールは、光の速さで3塁線を抜けた。
ファールボール!!!
間一髪、ラインの外側であったようだ。
キャッチャーの大蔵が構えたところに上手く投げ込む事が出来たので大事には至らなかったが、もう少しだけ真ん中に入っていたなら、長打になっていたに違いない。
バッターは完全に、初球からタイミングを合わせてきた。これを機に、キャッチャーの大蔵は外野に定位置につくよう、指示を出す。
当然だ。油断があってはならないからだ。
続く2球目、さっきのストレートにタイミングを合わせられていたという事を考慮し、大蔵は低めのチェンジアップを要求した。
..........ボール!!
バッターはピクッと反応したが、ギリギリのところでバットを止めた。どうやら、バッターの方も相当に配球を頭に入れているらしい。
これは今居とだけではなく、リードをする大蔵の勝負でもあるのだ。
考えた大蔵は、続く3球目に、またもやインハイのストレートを要求した。
..........ボール!!
危うくユニフォームの袖に当たるかというくらい身体に近い豪速球に、仰け反る事なく、自信を持って見逃した。
ワンストライクワンボールとした後、大蔵は外角への変化球でカウントを稼ぐという作戦に出た。続けざまにインコースをついたため、ここらでアウトコースに放ればバッターにとってボールが遠く見えると考えたからだ。
果たしてこの作戦はうまくいのか。
..........ファールボール!!
読みが外れたのか、タイミングがずれ、少し体勢を崩す形になったが、それでも外角のスライダーに食らいついてきた。
ツーストライクと追い込み、大蔵はもう1球外角の球を要求する事にした今度はストレートだ。
カキィーーーン!!!
リードを読んでいたのか、バッターは身体の芯をしっかり残し、腰を回転させライト方向に大きな飛球を飛ばした。
幸い、さっき外野は定位置に戻っていたためフェンスギリギリで捕球する事が出来たが、小柄に見合わないパワーと打撃技術に安室高校ナインは驚愕した。
「やれやれ、今日は球数が多くなりそうだ」
マウンド上で今居は小さな声でそう呟いた。




