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お嬢、婚約破棄です! 3


「嫌です!例えお嬢からの命令でも、それは嫌です!これはお嬢と私が出会ってからの大事な記録(メモリー)なんです!そりゃ多少の厳選はしますけどそれ以外での削除は嫌です!!」


削除なさい……と、言われて、奇妙な質感をした板状の『小型念写機』を抱え込み、メイドは必死の抵抗を見せた。


「厳選?選べばよろしいんですの?ならば、わたくしが検分して選んで差し上げます。さあ、その、小型念写機をこちらに寄越しなさい」


「嫌です!」


「では、本日のディナーのデザートは取り止めにして頂こうかしら?」


「う……」


「今日のデザートは料理人の国で、最近、流行した、『チョコレートケーキの王様』と呼ばれるほどのケーキらしいのだけれど」


「それは……正しく、ザッハトルテ!……その……チョコレートケーキの事は……よく……存じて……おります……」


「あら、そうなの?チョコレート味のバターケーキにアンズのジャムを挟んで、更に、外側をチョコレートでコーティングするんだったかしら?チョコレートの濃厚さとアンズジャムの味わいが癖になって仕舞うそうね?」


「くっ……やはり、ザッハトルテ……そして、お嬢、食レポの才能がおありなんですね……さすがお嬢……サスオジョ……」


「ショクレポとサスオジョがよく解らないのだけれど、褒められたのかしら?……でも、ディナーのデザートを取り止めにしたら、これらは全て無駄になってしまいますわねぇ……料理人も、きっと、がっかりしてしまうに違いないわ」


「……………………………………………………どうぞ」


咽び泣きのポーズを取りながら、メイドはお嬢に小型念写機を差し出す。


「ええと、どうするのだったかしら?……なんて。喜んでも無駄ですわ、あなたが使っているのを見て、覚えていますもの」


「ソフト(エス)のジョブまで持っているとは!お嬢、やりおる!そして、その観察眼と物覚えの良さ……素晴らしい!悔しい!素晴らしい!スバクヤらしい!!」


相変わらずメイドが何か言っているが、お嬢は小型念写機の中身を改める事に集中する。


これが、メイドの世界にあった、『同用途で使われる、ボタン式で操作を行う、旧式のほうの端末』であったなら、お嬢も操作を迷ったかもしれないが。

『画面を撫でる事によって操作が可能な新しいほうの端末』であったため、楽に操作が出来てしまった。


「ちょ……なんてもの記録してるの!!?職権乱用です!削除よ!削除!」


「ああ……『お嬢が、普段着れない路線の可愛らしい服をこっそり着てみて“やっぱり派手な顔立ちのわたくしでは似合いませんわね”ってがっかりするところまでがワンセット』の秘蔵動画〜〜〜!!」


「削除!……っと、あら?これは、リズベットさんがドレスに飲み物をかけられた夜会の時のものかしら?……こっちは別の夜会の時に……学校での様子も……?」


「だから言ったでしょう!『映像証拠ならむしろ、私、用意出来ますよ』って!結構細かい単位で撮ってるんで、私が学園に入ってからなら、現場不在証明(アリバイ)もかなりの頻度で出せますよ」


メイドの言葉に、お嬢は考える。

確かに、これは、提出できれば、証明としては有利だろう。


「……分かりましたわ。ただし、この、小型念写機本体は、そう簡単に表に出さない様にして頂戴」


このメイドは、お嬢が発見した段階で、幾つかの、異世界の道具を隠し持っていた。

お嬢が見て、こちらの技術で再現可能な物は借り受けて調べ、新しい道具として利用させてもらっているが、例えばこの小型念写機の様に、技術か使用……あるいは両方に、メイド自身の持つ、稀人(まれびと)の力の補助が必要な物は、なるべく多くの人の目に触れない様にしてもらっていた。


魔術師、技術者など、不思議を行う者は、この世界にも居る。

しかし、稀人であるこのメイドの能力は、それらを遥かに凌駕する。


知られて、興味を持たれた者から、メイドが実験台として扱われる危険性などを、お嬢は危惧していた。

稀人の立ち位置的に、そう問題が起こる事は無いと思うが、心配事は少ないに越したことはない。


お嬢の言葉に、メイドは「ええと……だったら、写真?だと、連続性が無いから……」などと、思案を巡らしていた。


「それとね、スッキリしたとは言いましたが、殿下に対するああした態度もお止めなさい。ヒヤヒヤしましたわ」


そう付け加えれば、「えー……それは、あの男次第ですわー…」と、片手間の気のない返事が帰ってくる。


「全く……さて、殿下との婚約を解消するとなるとこれからの事を考えなければなりませんわね。証拠の提出と、嘆願書の出所を調べて、謂れの無い冤罪は解くにしても、やはり一度結んだ婚約を解消するというのは外聞が悪いですもの」


「大丈夫!お嬢くらい面白味が溢れた超絶美女なら引く手あまたですって!」


「他はともかく、その『面白味が溢れた』……が、なんなのか気になるところですわね?」


言うと、またメイドはヒューヒューと風の漏れる、あの間抜けな音を口から鳴らす。


「だから、吹けてませんわよ!……というか、まあ、そう上手くも行きませんわ」


「そういうもんですかね?でもまああれです!もしもお嬢が行き遅れなんて事になったら、その時は私が(めと)る……のは、なんか、お嬢の幸せとして違う気がするから……一緒に商売しましょうよ!私、お嬢とだったらなんでも、いい感じに出来る気がするんで!」


「何ですの、その根拠の無い自信は……でも、まあ、もしもの時は、それもありかも知れませんわね」


「じゃあ、一先ずはお嬢の新しい婚約者探しですかね?お嬢に釣り合って阿呆の王子が吠え面かく様なテライケメンゲットを目標に!!」


意気揚々とメイドが拳を振り上げた。


「テラ……なんですの?」


この(あと)、ディナーのデザートが出された(のち)に、メイドが、(あと)出しで、メモリーカードなる物に映像などを複製保存していることを明かしてひと悶着起きるのだが、それはまた別の話である。

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