物価高対策としてクリスマスという高額出費を強いるイベントを法律で禁止し破ったカップルは厳罰に処すべきだと主張する自称庶民の味方、再び商業ギルドに向かう
メリークリスマス!
「そこの貴方、そこの貴方も労役です。下着一枚になってついて来なさい」
次々と女神様に指定されてゆく各種イケメン共。
どう考えても顔面基準で選んでいる。
国を捧げたのに秒で俺の事など眼中に無い。
だが、そうはさせない!
「おいてめぇ等! ちゃんと働かないとどうなるか分かっているよな! まずは俺に従うと宣言してもらおうか! じゃないと、どうなるか分かっているな? 拒絶は契約不履行だ。返事は?」
「は、早く従うと言え! この者達に従わぬのであれば、労役後に国家転覆罪で処する!」
反論する度に散々女神様に搾り取られた事で流石に調教されきった国王が、俺の意に追従して奴隷共に強く命じる。
「「「は、はい……」」」
「うん? 聞こえないな? 俺に従うんだよな?」
「「「はい!」」」
嫌嫌ながらと言うのが一目で分かる各表情で宣言せられる全く意思の籠もってない返事。
だが、これは元より忠誠を求めたものでは無い。
返事をした奴隷共の服がヒラリと脱げる。
「「「なっ…………………」」」
「…………」
驚きつつも状況を理解出来ない、いやどうしてもしたくない奴隷共と口を開けて唖然とする女神様。
【露出教名誉司教】である俺に従うとは即ち、露出教に入信すると言う事。
上手くいくかは賭けだったが俺は勝った。
これで女神様はこのイケメン奴隷共を侍らせられまい。
全裸の奴隷を侍らすなどすれば、女神様が如何なる美女でも変態に早変わり。
どのような立場であってもコレをヤッた時点で王でもある変態、神でもある変態といった様に本質が変態に呑まれるのだ。
この世に変態を超える肩書きなど存在しないのだから。
「はっはっはっ、女神様、二人でたっぷりこき使ってやろうせ!」
「はい…………」
俺の一手に対して女神様が怒りを顕にする事は無い。
何故ならば、建前上は従属の証としてパンイチにさせたからだ。
見せしめと言う建前は奴隷がイケメンばかりでも無茶では無い。女神様の怒りは誰もが目の当たりにしているし、この場にいる連中はその建前を信じているだろう。
しかしここで怒りを見せ、その理由がイケメンを侍らさたいと言う欲望だと知れ渡れば女神様のド変態認定間違い無しだ。
見せしめでパンイチと性癖でパンイチの意味は大きく違う。医者が手術で腹を切るのと、同じ部位を切ったとしても犯罪者が悪意を持って刃物で流血沙汰を起こすのとでは大きく意味が違うのと同じくらいに、パンイチも性癖の有無で意味合いが違う。
つまり、女神様は俺の行為に文句を言えないのだ。
国家予算をぶん取った後で、やり過ぎと言う意見もただブーメランになるだけ。
これでイケメン共は女神様の周りから完全に排除出来た。
入信していない奴隷を後から選んでも、先例がある以上公平性を担保する為とかそんな理由で即座に露出教にしてしまえばいい。
加えてイケメン共にイケメンと言う大罪に対しての公平なる裁きを与える事が出来る。
「クアッハッハッハッハッッ!!」
あまりに完璧な策過ぎて笑いが止まらない。
露出教の聖職者として女神様の代わりに俺がこの奴隷共を侍らせてやろう。
奴隷共の痴態を余す事なく民衆に見せつけてやるのだ。
聖職者として服を剥ぎ取る事を聖務とする俺ならば幾ら全裸の奴隷共を引き連れようとも変態にはならない。
寧ろ、全裸に剝いた数が多ければ多い程にそれは功績であり、俺の偉大さの一部となるのだ。
女神様に害虫は寄り付かず、イケメン共には天罰を、そして俺はますます偉大に。
「ナァァハッハッハッハッッ!!」
前半は兎も角、後半二つは思いもしていなかった収穫だ。
笑いが止まらん。
だが、問題もある。
それは女神様の機嫌だ。
どうにかご機嫌取りをする必要がある。
ただ、国家予算並の賠償金を得た今、女神様は一体何で喜ぶのか?
宝飾品は賠償金の物納としてティアラでも王冠でもここから持って行けば良いし、無いものでも大抵は買える。
城を1から建てる事も簡単だろうし、欲しい物なら手に入らないものの方が珍しい状態だ。
いや、女神様の事だからこの状況でも更に金貨を手に入れただけで十分喜ぶ様な気もする。
少なくとも、嫌がる事は無いのは確実だ。
となればやる事は一つ。
貢ぐ為の資金の確保。
幸い、アイテムボックスの中にはリア獣駆除で集めた素材がたんまりとある。
その中には金銀財宝もあった筈だし、あの量から考えると結構いい値がするだろう。
問題はどこで売るかだが、もう一両替所、じゃなくて度商業ギルドに行けばなんとかなるだろう。
土地ですら城付きで売っていたのだから、もっと手軽なものを取り扱っていない筈が無い。
城を巡りお宝を毟り取りに行くという女神様と一旦別れ、俺は城を買った商人ギルドを目指す。
歩きでは時間がかかるから方法は跳躍で良いだろう。
と言う事で一飛び。
今回はこの街が賠償金の供給源となった事から、街に被害が出ない様に細心の注意を払って踏み込んだ。
今やここは女神様の財布。それを傷つけたらどれだけ機嫌を損ねる事になるか分かったものじゃない。
念の為、地面ではなく空間そのものを蹴ったが、それも壊さない様に細心の注意を払い、突風が吹き荒れない様に風の流れを作り、そこに身を任せる。
そして二蹴りで俺の城がある街の上空へ。
商業ギルドの入り口前に直接着地する。
「きゃぁぁぉーー〜〜〜!!」
着地した目の前には城を売ってくれた受付のお姉さん。
音もなく着地したせいで、かなり驚かせてしまったようだ。
「すまない、お姉さん! 俺だよ俺、城を買った!」
「きぃぃゃぁぁぁーーーーーッッ!!」
何故か悲鳴が激しくなった気がする。
うん、気の所為に違いない。
「何事だ!」
「露出教徒!? その女性から離れろ!」
ん? 露出教徒?
そう言われて初めて自分の服装に気が付いた。
何も身に纏っていない。
違う星に飛ばされ戦っていた時に、全部消失してしまっていたようだ。
だが、何も臆することは無い。
俺は露出教の偉大なる聖職者。
正当に見せつける事ができ、正当に女性の悲鳴をいただける立場。
何なら、紳士な俺は自主的に動くの待つが、別に女性の服を脱がしたってまるで問題ない。
「どうした!?」
「衛兵を呼べっ!!」
しかし、これでは取引が出来ない。
仕方がない。
ここは真摯な俺が譲るとしよう。
スカウトされアイドルになってからの大人気でドーム公演した場合に備えて身に着けたアイドル必須技術の一つ、早着替えを披露する。
上は着替える服を広がながら投げ、落ちる前に袖を通し、下は逆向きに投げてアクロバティックな動きで逆立ちからのジャンプでイン。
その勢いのままバク転空中横捻りを決め、お辞儀する様な体勢で勢いを殺し華麗に着地。
ギターケースを広げていたら小銭の氾濫で通行者に迷惑をかけること間違い無しの完成度だ。
が、お姉さんの前だかと張り切り過ぎて0.001秒でやってしまったせいで残念ながら、誰にも見えていなかったらしい。
残念ながら、拍手喝采がない。
「なっ、いつの間にっ!?」
「一体どうやって!?」
「“完全武装”が使えるのか!?」
まあ、この驚きの声を拍手喝采の代わりとしよう。
場の感情を支配できればエンターテイナーとして勝利なのだから。
尚、着替えたのは商談様にバニーちゃんの店で買ったゴールデンなゴージャススーツだ。
間違いなく特上の俺に相応しきゴールデンさで、折り紙の金色の如き輝きを発し、太陽の下だと黄金のミラーボールの様な威容を放つ。
にも関わらず、お値段は何故か安いと言う何で流行ってないのかと驚く程の低価格。
「なんだ、あの下品な金色の男は?」
「露出教はどこだ?」
「露出教じゃなくて趣味の悪い服の男しかいないじゃないか。金にしてももう少しマシな金色はなかったのか?」
……何故か驚きの低評価。
こいつ等の目、全部節穴なのか?
ここ、商人ギルドだよな? 名前の通り商人が来る感じのところだよな?
何故に商品価値を見極められなければいけない商人達が揃いも揃ってこの金ピカ服の良さが理解出来ないんだ?
おかしい。
いや、そうか。
この世界は見ての通り文明レベルがどう見積もっても産業革命前。200〜300年前のレベルよりは確実に数世紀前のレベル。世界史に詳しくないが多分。
つまり、この最先端の洗練され尽くした金ピカスーツの良さが分からないのだ。
この服を作ったバニーちゃんですらも、この服を宴会芸用とか言っていた。
そうなると仕方がない。
要は素晴らし過ぎる俺はこの世界にとってキャパオーバーなのだ。
この世界にとって俺は早すぎたとも言える。
圧倒的な革命をもたらす偉大なる指導者、この世界を新たに始める新歴元年、それが俺だ。
そう考えれば圧倒的変革を受け容れるには時間がかかるのも当然。
導き手たる俺は慈悲深く時代が追いつくのを待つとしよう。
まあ、明日にはもうこの黄金スーツが大流行しているかも知れんがな!
俺の魅力は固定観念如きがどうこう出来るものでは無いのだから!
なっははははははっっ!!
だが、趣味が悪い扱いされるのは癪に障るから分かりやすいアイテムも追加しておこう。
確か、色々と駆除している時に良さげなアイテムが落ちていた筈だ。
このゴージャスなスーツにピッタリなアクセルが、シルクハット的なものがあった筈だ。
あやふやイメージを浮かべると、脳裏のアイテムボックスの一覧に、一つの名が浮かんで来た。
・メルヴォールの宝冠
名前からピントは来ないが、一応出してみると、それは俺が探していた奴だった。
一言で例えるならば、それは黄金のシルクハット。
とは言っても黄金のシルクで編まれたシルクハットでは無い。
黄金で作られたシルクハットだ。
リボンが巻かれている部分には銀、いや銀よりも銀らしい王冠の様な飾りに、大粒の宝玉が複数埋め込まれ、中心には五円玉っぽい色合いだが何故か金よりも金にすら思える赤みを帯びた金で作られた紋章の様な飾りと、その中央部には空色の宝玉。宝玉の内部にはどう刻んだのか、赤みを帯びた金が紋章を画き薄っすらと光っている。
ゴージャスなスーツにピッタリの帽子である。
「なんだ、この下上の差は……」
「スーツが余計に際立って、いや、これは王冠を引き上げる計算?」
「いや、中身が貧乏人一色の偶然大金を手にした成金にしか……」
「王冠、いや宝冠、間違い無い、本物だ……」
「ミスリルとあれ程の宝珠が埋め込まれた冠など、一体どこの大国の?」
「オリハルコン、間違い無い、オリハルコン、だ……」
「オリハルコン、神授の王冠だとでも言うのか……?」
「あの宝珠の中の刻印、あれもオリハルコンだ……。人に、作れる筈が無い」
「王権、神授……、真の王の証だとでも言うのか……」
ふふふ、俺の偉大さが存分に伝わった様だ。
分かり易さが重要だったらしい。
身嗜みが無事に整ったところで、ふくよかなおっさん、商業ギルドの支部長が走ってやって来た。
支部長が走ってくるとは超絶なビップ待遇。
よく分かっているじゃないか。
「なっ、かはっ、はぁはぁはぁ……。こ、この度は、ようこそ、かはっ、お越しを……」
「支部長、ポーションを!」
「踏ん張ってください! 胃薬です!」
「絶対に倒れないで!」
支部長は相当体調が悪いらしく吐血していた。
顔色も相当悪く、本当に青く見える。
ポーションを飲ませようとする職員を静止し、相当小さな声で何やらやり取りをしている。
俺に対しては普通の声量で対応してくれたが、本当は声も出すのも辛い状態なのだろう。
「薬はいらん! このまま倒らせろ! そもそも心配しているのならば、休ませろ!」
「無茶を! 国を一人で実質制圧する相手に、一介の職員が対応出来る訳がないでしょう!」
「ええい! お前らも幹部だろが! 何が一介の職員だ!」
「相手は国すらも何とも思わない相手ですよ! 最低でも支部長くらいの立場の人間が相手しないと、本部にまでも手を出す可能性が!」
「そんな相手、一介の支部長如きでどうにか出来る訳ないだろうがっ!」
決死の表情で、よく聞こえないが超小声のやり取りを続ける支部長一行。
「大丈夫なのか?」
「も、勿論大丈夫ですともっ!!」
「支部長は張り切り過ぎて喉を傷付けてしまいまして!!」
他の職員が喉の傷を悪化させないように支部長の口を塞ぎながら変わりに答える。
なるほど、あまりにビップな俺が再び来たので張り切り過ぎてしまったのか。
「はははははっ! そうなのか! 張り切り過ぎてしまったのか!」
「はっ、はい……。それで、何用で」
ポーションを流し込まれ復活した支部長が祈りのポーズの様にすら見える揉み手で用件を聞いて来た。
「実はな、色々手に入れたんで売りたくてな」
「がはっ、色々、手に入れた……」
また張り切り過ぎて喉を切ってしまったらしい。
結構な吐血量だ。
声は出さないものの他の職員の顔色も悪い。
張り切り過ぎるのも健康に悪い様だ。
病は気からというが、行き過ぎは別問題らしい。
「ど、どうぞ、こちらへ」
緊急措置で、職員からびしょ濡れになるほどポーションをかけられた支部長は無事に復活し、俺を中へと招く。
取り敢えずで来てみたが、ここでアイテムは売りさばける様だ。
さて、女神様が喜ぶ額は稼げるだろうか。




