テラウェッジ家でホームパーティ2
テラウェッジ家で行われるホームパーティの日がやってきた。ヘルマンとルーテシアはほんの少しだけオシャレをしてテラウェッジ家へ向かう。今日は家族だけなので、過度にめかしこむ必要はなかった。
テラウェッジ家はルーテシアの実家であるラルジャイル家よりも一回り以上大きな豪邸だ。到着すると、まずは仕事をやめてのんびりとした生活を送っているというヘルマンの父親に挨拶に向かう。
「父上」
「おお! ルーテシアさん! 元気でやっているかい? ヘルマンには虐められていないかい?」
ヘルマンの父は両手を広げてルーテシアを歓迎した。流石のルーテシアもその勢いに圧倒される。
「は、はい。ヘルマン様にはよくしていただいています」
「本当かい? もしヘルマンに不満があるなら僕に言うんだよ?」
「……父上」
そこにヘルマンの固くなった声が割って入った。
「ルーテシアを困らせるのはやめてください。あと、私のことを無視しないでください」
「おお、来ていたのか息子よ!」
「まったく……」
父の冗談には慣れたものであるヘルマンもルーテシアが巻き込まれるかと思うと渋い顔をする。しかし、ルーテシアはそんな父親の態度も息子への愛情からのものであるとわかるので、微笑ましく見守っていた。
「父上、改めてご報告があります」
気分を変えるような声色で言い、ヘルマンは姿勢を正す。
「この度、第一王女アンジェリカ様の近衛騎士に任命され、プルガトルへ赴任することとなりました」
「うん」
父親も少し真面目な雰囲気になって1つ頷く。
「報告が遅れて申し訳ありませんでした」
「いや、いい。だが、そうか……プルガトルな」
「何か懸念事項でも?」
表情を曇らせた父親にヘルマンが尋ねる。
「いや、孫ができてもなかなか会えないと思ってな」
「そんなことでしたか」
急な孫の話にルーテシアは顔を赤くするが、ヘルマンはそれには気が付かずにため息をついた。
「父上にはもうすでに5人も孫がいるのだから、十分でしょう」
「いや、違うんだ! ライアンとウォルトンの子ももちろん可愛いが、ヘルマンの子だって見たいだろう!」
「ライアン兄上の子供とは一緒に住んでいるのですから……」
「わかってないなぁ、お前は」
父親は呆れた顔をヘルマンに向ける。ヘルマンは困ったようにもう一度ため息をついた。
「別に生涯離れるわけではないのですから、時々は帰ってきますよ」
噛み合わない親子の会話を聞きながら、ルーテシアはヘルマンが子供のことについて否定もしなかったことに、密かに赤面する。ヘルマンはライアンの子供に怖がられているのが悲しい様子だったので、自分も子を持つことに消極的なのではないかと思っていた。だが、ルーテシアは子供が好きなので、いずれ可能性はあると思ってくれているのだとしたら嬉しいことだ。
「いつまでもヘルマンを拘束していてはライアンにも母さんにも怒られるな。下に行こう」
父親がそう促し、三人はサンルームへと向かう。サンルームもとても広く、ホームパーティが開催できるほどであった。
サンルームには既にヘルマンの母親、兄であるライアン、ライアンの妻、そしてその三人の子どもたちが集まっている。
「ヘルマン!」
三人が入っていくと、すぐにそれに気が付いたライアンがやってきた。ライアンはヘルマンとは違う薄い青色の髪の毛で、文官とは思えないがっしりとした身体つきの男性だ。
「久しぶりだな! ヘルマンはちっとも顔を出さないから」
ライアンの声はひときわ大きい。毎回会う度にルーテシアも驚いてしまうほどだ。
「ご無沙汰しております、ライアン兄上。この度はこのような会をありがとうございます」
「堅苦しい挨拶はいいんだ、ヘルマン」
ライアンは気さくな雰囲気でヘルマンの肩に手を回す。
「近衛騎士とは、すごいじゃないか! 兄として鼻が高いよ」
「恐縮です」
「プルガトルに行ってしまうのは寂しいけどな」
ライアンも父親と同じようなことを言う。
「ルーテシアさんも、いらっしゃい」
「ご無沙汰しております、お義兄様」
ルーテシアもヘルマンの妻として慎ましやかな挨拶をする。
「ヘルマンはどうだい? 愛想を尽かしてないか?」
「ライアン兄上!」
また父親と同じようなことを尋ねられた。ルーテシアはヘルマンから結婚前から心配されていたという話を聞いていたので、なるべく自然な笑顔を見せる。
「仲良くしていただいていますよ」
「……本当に? 無理はしてない?」
「兄上!」
ヘルマンがライアンの言葉を強引に遮った。
「ほら、みんな待っているのですからパーティを始めましょう」
「そうか……。なら、またあとで詳しく話を聞かせてくれよ」
ライアンはルーテシアにそう名残惜しそうに言う。ルーテシアも笑顔で「はい」と、返事をした。
「さあ、じゃあパーティを始めよう! ヘルマンの近衛騎士就任を祝して!」
ライアンの掛け声で全員がグラスを合わせる。ヘルマンと目が合ったルーテシアは笑顔でコツンとグラスを重ねた。




