12.5
おまけ
公開訓練は無事に終わり、帰り。ヘルマンとルーテシアは王城前で並んで馬車を待っていた。
「疲れませんでしたか?」
「いいえ、まだまだ元気ですよ。ヘルマン様の模擬戦を応援するのに、力が入ってしまいましたけれど……」
ルーテシアは笑顔で腕をほぐす。変に力が入ってしまったようで、筋肉痛になりそうな痛みだった。
「お疲れになったのはヘルマン様の方ではないですか? あんなにハードな訓練を」
「普段に比べれば軽いものです」
「あれで、ですか!?」
「ええ。休みなしで2時間、なんていうことも」
「まあ!」
ルーテシアは口に手を当てて驚く。
「それはお疲れになるでしょう! 私も本を持ち運ぶので腕の筋肉には自信がありますが、使うのは腕だけではないですものね」
「まあ私は普段から鍛えておりますので」
「そうですよね」
ヘルマンの身体つきをチラリと見た。前々から思ってはいたが、服の上からでもそれなりに筋肉があることがわかる。触ってみたいけれど、避けられた時を思うと怖いので、ぐっと我慢した。
「でも、今日は本当に楽しかったです。エクレール様ともお知り合いになれましたし。今度お茶会に招待してくださると、言ってくれました」
「それはよかったです」
結局ガリオから、ヘルマンが何で笑ったのか、聞くことができなかった。それに、ガリオはヘルマンが緊張していると言ったけれど、ルーテシアには思い当たる節がない。自分相手に緊張などしないだろうと思っている。
だから、次こそはもっと話を聞きたい。だからこそ、エクレールとガリオとは今後も親しくしていきたいと、自分の目的のためにそう思っていた。
そのタイミングで馬車がやってくる。ルーテシアはヘルマンにエスコートされて馬車に乗り込んだ。
「家に戻るまで時間があります。目を閉じていて構いませんよ」
馬車が動き出すと、ルーテシアの隣に座ったヘルマンがそう声をかける。ルーテシアはせっかくヘルマンと話せる機会を逃してなるものか! と、首を横に振った。しかし、それをヘルマンは遠慮していると取ったようだ。
「私のことはお気になさらず」
「いえ、本当に……」
「肩でも貸しましょうか?」
「え?」
再度断ろうとしたルーテシアはヘルマンの申し出に目をみはる。肩を貸す、ということは自分の頭をヘルマンに乗せるということだ。
(そんなの、まるで恋人同士みたいじゃない!)
既に夫婦であるのだが、そんなことは頭から飛んでいってしまっているルーテシアは頬を赤らめながら恥ずかしがる。声も出せなくなっているルーテシアの頭にヘルマンの右腕が伸びてきた。
「!?」
一瞬、これから抱きしめられるかのような格好になり、ルーテシアの心拍数が一気に上る。ヘルマンの右手がルーテシアの頭に優しく触れ、自分の左肩へと誘った。結果、ルーテシアはヘルマンの左肩に頭をつけるような格好になっている。
「気にせずおやすみください」
ヘルマンが低い声でそう言う。バッと頭を離すのも失礼だし、離れたくもなかった。ただ、この今までなかったような密着状態で、ルーテシアの頭はパンク寸前だ。
ルーテシアは言われるがまま目をぎゅっとつぶる。眠れるはずもないまま、家に着くまでルーテシアは身体を固くした状態で、ヘルマンの熱を感じていたのだった。




