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転生と転性と天性の錬金術師  作者: いざなぎみこと
第二章 神霊王女争奪戦
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#49 若鴉嘱目

 アークヴァイン王国西部、農業都市【ウォルライン】。

 自然と調和した木造家屋が並び立つ農業都市は、様々な種類の野菜や穀物を栽培している。綺麗な水、肥沃な大地、十分な知識を持った農夫たち。それらが織りなす質と量を兼ね備えた農作物は、アークヴァイン王国全域の糧食に関わっているという糧食拠点都市。


 その一画。もはや廃屋同然の納屋の地下。


「『商人』師団、帰投した」


 泥だらけの外套を入り口のラックに脱ぎかけて、少年が地下室に降りる。

 じりじりと灯りながらも明滅してる電球だけが照明の地下室。鈍色の籠手から矢筒を外した少年――コルヴォ=ランピオン・スレイグレイブが薄闇に向けて言い放つ。


「ご苦労だったな」

「あんらぁ、お帰りなさ~いなぁ」


 返した声はそれぞれ男女、待っていたのも二人の男女。革がいくらか剥げたソファに座り、各々本を読んだり飲み物を口に付けたりと、ゆったりとした様子だ。

 一人は『屍喰いの鴉』師団長にして、今回の騒動の根源こと、クロウ=サルバトーレ・ダリウス。相変わらず鴉のような真っ黒一色の出で立ちだ。


 もう一人は『鏖殺(おうさつ)』の師団長、赤いドレッドヘアーと金色の瞳が特徴の、シュカ=ハリマオウ・レピテム。外套で覆っていた体の下は、蛇のように滑らかな鱗で覆われており、彼女が人間種と違う獣人種であることを現わしている。


「子供と大人は離して保護してる。相談なんだが、そっちの『十二兵』を何人か借りてもいいか。風の精霊を行使しようと脱走はできんだろうが、一応な」

「えぇ~……コルヴォちゃんとこにもいるでしょぉ~? アタシぃ、ただでさえ仕事パクられて暇してんのにぃ~部下までパクられたら死んじゃうかもぉ~」

「欠員が出た。斥候も消えていたから、今は半分以下だよ」


 ニタニタと口角を上げて笑うシュカに対して、コルヴォは何処までも冷静だった。少なくとも、少し見なかった間とは違って落ち着いている様子で、シュカも意外そうに鼻を鳴らす。普段なら茶化す発言に突っかかるのが彼の常だったからである。そんな反応にクロウは続けて問う。


「イレギュラーでも生じたか?」

「ああ。あの時居た眼鏡のババア……まさかアイツが悪名高い『暴食のステラ』とはな。翼竜の首を手刀一発でバッツリ。一刀両断さ」

「他には?」

「その隣に居た重力操作のピンク髪もヤバかった。訓練積んだウチの『六団曹』すら満足に動けない重力場を生み出せる。だが重力の砲撃を詠唱する気配は無かった。たぶん、エルフたちを巻き添えにしないためだった……そう信じたいけど」

「では、無かったと」

「じゃなきゃ、初撃不意打ちとはいえ爆弾みてぇな圧力の波を叩きつける真似はしないと思ってな。指示されて撃たなかったか、あるいは出力調整がへたくそか」


 コルヴォの報告を聞きながら、クロウはただただ頷いていた。彼の目で見て、聞いたことを、尊重して聞いているようだった。


「だが、当座の目的は果たせた。シルヴィオが死んで、こっちの手駒はほぼほぼやられて、文字通り師団は壊滅状態だけどね」

「ご苦労だったな、コルヴォ。ゆっくり団員を休ませておけ。今後の為にもな」


 「了解」と、一言だけ告げて地下室から出ていくコルヴォ。

 鉛を飲んだように沈んだ意気のコルヴォに、シュカはややも怪訝な表情を見せる。


「もしかしてだけど、コルヴォちゃん、まっさか言ったことに凹んでるわけじゃないよねぇ?」

「馬鹿なことを言うな。そんなタマだったら、今頃死んでいる」

「……よねぇ~」


 シュカは常温に冷めた紅茶に口を付ける。「舌を火傷すると全部の感覚が鈍るから」と、彼女はいつも熱いものは常温以下になるまで冷ますのが癖だ。見慣れた光景に、関心なさげに本に目を戻すクロウに、シュカもシュカでつまらなさそうに頬を膨らませる。


「ねぇねぇ、クロォ。あーやってしょぼくれてるカレぇ。ホントに「今後」に参加させる気ぃ?」

「無論参加してもらうさ。でなけりゃ今までの全てが無に帰す。コルヴォは俺の後継者だ。後継に継承できるものは全て渡すつもりでいる。奴には全てを見せなきゃならん」

「ふぅ~ん……そぉ。ま、男衆がなに考えてるかは知んないけどぉ。アタシたちの出番、しっかり作ってよぉ?」

「当たり前だろう、シュカ。むしろ、ここからがお前たち『鏖殺』の師団の出番だ。予想が当たれば錬金術師にも手駒が随分増えそうだからな、お前たちには暴れてもらうぞ」

「ケヒャッ! それはそれは一番の見せ場だねぇ!」


 軽快な会話も、どこか重々しい雰囲気を感じるシュカ。


 ――……やっぱ、いつもと違う感じぃ?


「……陰の世界で生きる術の全てを渡さんと、後を任せることはできんからな」


 光を通さない漆黒の瞳に、微かに人間性が帯びていたこと。

 そしてあまりにらしくない発言を、シュカが見逃すはずもなかった。

 しかし、あの総団長が嘯く言葉は得てして意味を持ってないことも多い。

 らしい言葉も、らしくない言葉も、人心を揺らがせ突きやすくするための詭弁なのが大概だ。


「……俺の後任、ねぇ~」


 ――きっと、言葉遊びみたいなもの、よねぇ。


 そも珍しい独白に対して、シュカは何一つ答えず、文字を追うクロウの目を、顔を、眺めていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。


珍しく鴉サイドのお話です。


今回は今までに比べてやけに短めです。

一区切りだからね、まあね。

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