表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生と転性と天性の錬金術師  作者: いざなぎみこと
第二章 神霊王女争奪戦
35/62

#31 精霊魔術

 改めてヘルメスとリルは、リビングの椅子に座る『神霊王女』こと、シアラ・ウィル・マナリアを眺める。リルの淹れた香草茶を口に含み、味わうようにコクリと飲み込むと、老人臭いぷはーっという呼気を吐き出した。


「美味しい香草茶ですね! 私の集落ではあまり嗅いだことのない香りですが、これは?」

「こりゃあルベドの森の表層付近で取れる葉っぱを使ってんだ。俺の世界じゃハーブティーとか呼ばれてるな」

「ダモレスという香草を干して乾燥させたものですね。それ以外にも三種類の香草をブレンドしてあります。疲労回復やリラックス効果など、体に優しい効果がありますね」

「……だそうだ」

「主は香草を摘んでしかこないから、作用とかは知らないんですよ」


 クローバー型の翡翠の髪飾りと神銀のティアラを乗せ、穢れなき白い柔肌に薄い碧色の長い髪が嫋やかにたなびかせながら、ヘルメスとリルの眼と合うと碧色の瞳を優しく細める。


 『神霊種(エルフ)』――清浄で神聖な森を住処として少数で繁栄している種族。人間の美意識に極めて近い長寿・聡明・美麗と、三拍子そろった美しい女性や可憐な少女の姿をしている者が多い。様々な精霊と共存しており、〈魔法〉に極めて近いとされる〈精霊魔術〉という術を扱うとされている。


 目の前でくぴくぴと美味しそうに香草茶を飲んでいるのは、見た目だけで判断すればまだ十五にも満たない少女だ。柔和な笑みとコロコロと変える表情のせいか、ラフィーゼよりも幼く見える。それでも見紛うことなき神霊種(エルフ)たちの王女なのだ。否応なくヘルメスたちの緊張感も高まる……はずがないのだが。


 結局、二人の一歩引いたような態度もややすれば普段通りの話し方になっていた。


「んじゃ、改めて自己紹介を。俺の名はヘルメス・トリスメギストス。このルベドの森で錬金術師をやってる」

「その従者、フェンリルです。リルとお呼びください。……此度は多大な無礼を働き、まこと申し訳ありませんでした」

「えっと、その……先ほどから「敵が増える」だとか「無礼」とか、よくわからないことをおっしゃってますがー……?」


 可愛らしくシアラは首を傾げる。


 ――なんて危機感の無い王女様なんだ……。


 さしものリルも思わず絶句した。

 人間種だろうと人狼種だろうと、恐らく神霊種だろうと「知らない人に付いていく」ことがどれだけやってはいけないことか、親や先達やらに教わっているだろう。

 もしかしたら神霊種の集落はごく閉鎖的な社会で、元来『神霊王女』が誰かの家へと行くこと自体が異例なのかもしれない。そもそもこんな事態が起こることを想定していないというわけだ。実際今の状況は非常事態であることに変わりはないだろうし。


 救いの船を、と主に目で合図を送るリルだが、いたたまれない表情で目を逸らす。


 ――お前から言ってくれないか?

 ――ふざけるな。


 内心怒鳴りたくもなったがそうもいかない。なんとか言葉を選んで説明するが――。


「あー……その、ですね。えーっと……今回ここに来てもらったのは、その。どちらかと言えば「誘拐」というか……」

「へ?」


 誘拐――リルが口走ってしまった言葉にシアラは茫然とする。


「んー……まあ言い方は悪いがそういうことになるよなぁ」

「それじゃ……あなた……たち、は……?」

「便宜上は……ワルモノさんだなぁ。うん」


 シアラが発する空気が変わるのをヘルメスも敏感に感じ取っていた。……が、今は正直に言うしかない。自分がやっていることは現状、詳しい理由を話せない以上犯罪以外の何物でもないからだ。


「ぐすんっ」


 一瞬だけ、顔を見合わせるくらいの時間だった。

 

「「え?」」

「ふぇぇぇぇんっ!!」


 ――泣き出した!?


 突如として泣き出したシアラに二人は困惑するが、当然の帰結ではあることは理解していた。

 だが常人の何十倍も年を重ねているであろう神霊種が、まさかこんなあっさり泣き喚くとは思いもせず、ただただ二人は顔を見合わせどうしようかとオタオタしていた。


 そして気付く――シアラの元へと膨大な魔力が集まりつつあることに。


 それは強大な引力が物体を引き寄せるように。

 それでいて特定の力のみを選り分けているように。

 さらに不純物を取り除いて力を練り上げているように。


 その工程は魔術の構成に似ており、ヘルメスたちもようやく『神霊王女』の脅威を思い知る。


「主……これはヤバいんじゃないか?」

「うん、どう考えてもヤバいな」


 シアラの碧色の眼が恐怖の色に染まっていくにつれ、顕現せんと膨れ上がり続ける力が収束していく。


「助けて――『スプリフォ・サレファドラ』!」


 名前と思しき術式を叫んだシアラの背後で空間が揺らめく。

 陽炎が実体化するような空間の歪みが広がっていくとともに姿を現した。


「……いよいよもってヤバいんじゃないか?」

「うん、消し炭ルート直行かな」


 顕現したのは、鋭い牙を持つ大口から紅炎をまき散らす、一対の翼を持つ赤き竜であった。

 最後までお読みいただきありがとうございました。


 精霊と神霊を混同させて自分が混乱するっていう……アホデスカネェ、マッタク。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ