19話 回想録Ⅱ─試験─
「!?」
いきなり、私の後ろで声がした。
この部屋には、私と神殿長、2人しかいないはずなのに。
慌てて後ろを振り向くと、私よりも頭二つ程背の低い、白髪とオッドアイの少女が静かに立っていた。
「っ!?、!……!?」
私は面白いくらいに動揺した。
忌み子、と嫌われる神罰の白い髪に驚いた。
宝石のような、青玉と紅玉の瞳に惹かれた。
神が造り上げた人形のように、美しい顔の造形に魅せられた。
その少女は、滑るように滑らかに歩く。
ただ、目を奪われた。
とてつもなく、綺麗だと思った。
「我が息子ながら、何とも解りやすいな……」
ぼそりと呟かれた父の言葉に、ハッと意識を呼び戻す。
「シェイル、ステラ……っ」
その少女は、ちらりとこちらを見て、再び父の方に顔を向ける。
「話したのね」
「悪かったか?」
「悪びれもせず……。まぁ良いわ。結論から言うと、ルトの予想は当たりね」
はい、と少女は父に、手に持っていた書類の束を渡す。
そのやり取りを見て、私は漸く、彼女がグラン地方の疫病に関する調査を依頼されていた事を思い出した。
どうやってここまで来たのか不明なのだが……
「私にこういう所への侵入をさせないでくれる?」
こういう事らしい。
いやいやいや!待って欲しい。
罪人の逃亡、または脱走の手引き、その侵入を許さないこの牢獄城に侵入!?
「具体的には?」
「清々しい程の無視ね、全く……」
少女の渡した資料にざっと目を通した父は、少女の意見を聞く。
そのある意味マイペースな姿に溜め息をつき、少女は話し出す。
「全部書いている通りなのだけどね。
──現在、グラン地方の穀物類の収穫量が下がってきているわ。私が調べたところ、原因は土壌。ここ数十年、新しく開発された肥料を使っていたでしょう?あれが土に染み込んで、土壌を変質させ、その土を通って、根から植物に入った水が、毒素を植物無いに残したの。で、主にその毒素が溜まっているのが実の部分。
つまり、収穫した実を食べた人が毒に侵され、発病。同じものを口にするのであれば、確かに疫病ね。
当然、グラン地方は国の食糧庫。あそこで収穫された物は、国内、そして国外へ輸出されるわ。後はご想像の通り。世界中に広まるわね。
肥料を調べて私もすぐ解ったから、ルトは最初から知っていたんじゃないかしら?あれが毒になる事を。イザデラ領ではあの肥料は使っていなかったもの。直前に伝えて恩を売るつもりだったのかしら?」
「あの妖精の事だ。十中八九そうだったのだろう」
「報告は以上よ。追加は?」
「解決策。──用意してるんだろう?」
はぁ、と少女は溜め息をつき、空間収納から小瓶を取り出す。
「はい、分析は得意でしょう?好きに使えば良いわ」
少女がそれを神殿長に渡す寸前、ピタリと動きを止める。
その後、暫く考え込み、私の方に向かって歩き始め、え?
「貴方にあげるわ。
それで良いでしょう?神殿長」
「あぁ、そっちの方が良い。元々その予定だった」
「上手く扱ってみなさい。ルトは、王族試験管、王の器を試す人材だったわ。私も似たような事をしているの。
貴方の〝器〟を見せてもらうわ」
「は!?」
私はもう訳がわからなかった。
どうやらグラン地方には確かに疫病の危険があるようだ。
だが、それを庫の少女が調べた?
いや、彼女はあの星印商会の会長で、いや、そもそもここに侵入。
穀物が毒に?
メカルト・マールが予め知っていた!?……これは罪状が増えそうですね。
と言うか対策の薬!?どこまで話は進んでいる!?
取り敢えず、大混乱していた。
「哀れになる程の慌てぶりだ」
黙っていてくれませんか?父上。
「でも、その思考の中にルトの罪の事があったわよ?意外と強かね」
「!?、!?」
口に出していた!?
いや、そんなはずは……。
「あぁ、こいつは人の思考をずかずかと読むし、心まで読むぞ」
心まで!?
どこまでが筒抜けなのだ!
「だから、私は許可無しに心を読まないと、大体通常は心を読めないわよ。表情から何を考えているか予測するだけよ」
「こういう化け物だ」
「ねぇっさすがに怒るわよ!」
「そもそもゲームとやらの時には、許可を得ず読んだそうだな」
「うっ……あれは例外よ!緊急事態だったもの」
2つ解ったことがある。
私は無表情がデフォルトだと思っていたが、彼女の前では意味がないらしい。
そして、少女、シェイルは確かに、父と平然と話す事のできる傑物だ。
複雑そうな顔で私を見た彼女は、1つ息をはいて空気を切り替える。
また思考を読み取られたのだろうか。そうだろうな。
「それで、貴方はこれをどう扱う?」
試すように、いや、事実試しているのだろう。
私の答えを待ち望むように、若干楽しげに笑う。
「事情を説明して……」
「阿呆。パニックになるだろう」
「神殿長……」
た、確かに。
それを食べたら死にます、と突然言われたら混乱は確実だ。
この薬が効くかも怪しまれるだろう。
「余計な口出しは意味無いでしょう……」
「今後は一切手助けしないから安心しろ」
「全く……本当にマイペースなんだから」
「それをお前が言うか?」
神殿長が心底驚いたような顔で言う。
それで察した。
この2人は同類だ、と
幸いな事に、こちらを見ていなかったので、この思考は気付かれなかったようだ。
気付かれていたら、まず間違いなく睨まれていただろうから。
さて、ではどうやってこの薬を飲ませれば……待てよ?
次回の投稿は4/15の予定です
かねてから更新のスピードが芳しくないところ、お付き合いただき、本当に有難うございます
この話の完結はまだ先の事ではありますが、受験期に入りましたことも含めて、更新は受験が終わるまでは隔週更新を固定としたいと思います
また、諸事情により、更新できない可能性もありますが、可能な限り、月に二回ほどは更新したいと思っています
今後とも末永くお付き合いいただければ幸いです




