半年の間Ⅱ
メイドさんが怖かった話────────────
アキヤ・スバル、転移3日目。
疑問が1つあります。
僕の部屋の掃除って誰がしてるんだろう?
客室で生活していく中で、ベッドで寝るから、シーツはしわくちゃになっちゃうよね。
どうしようかなーと思いながら、取り敢えず朝御飯食べに行って帰ってきたら、もう新しいシーツになってた。
それだったら、食事の間に誰かが変えたんだろうなって思う。
でも、それ以外の時間はほとんど部屋に籠っているんだよ?
着替えはシーツと一緒に片付けられるかもしれないけど、部屋の掃除とか、僕が散らかしてた本の整理とかってどう考えても日中にやってるよね?
極めつけは、花。
朝見たら、黄色い花だったのに、その数時間後、青い花になっていた。
いつの間に生け変えたの!?
シェイルに聞いてすぐ答え合わせするのは一寸つまらないから、自力で探してみよう。
そう思って本を読み始めて1時間後。
『あれ!?花がもう変わってる!?』
見つけられなかった。
そのさらに30分後。
『あれ!?後で返しに行こうとしてた本が無くなってる!?』
そのさらに1時間後。
『あ!本についてた埃が一寸あったのが消えてる!』
その2時間後。
『ふう、一段落するか。もうお昼だねってあ!?軽食が置いてある!?』
結果、全戦全敗でした。
何時入ってきて、何時出てったのか全然わからなかった。
悔しいからこの食器を下げに来るであろう次の時こそ!
あ、サンドイッチは美味しかったです。
本を抱えて、全神経を扉の方に集中させる。
サンドイッチがのっていたお皿は近くのテーブルに置いてる。
今度こそ見つけてやる!
そうやって待つこと数分。
僕一人しかいない空間に、揺らぎのような物を感じた。
バッと扉の方を見る。
そこには、音を立てず静かに部屋に入ってくる侍女さん!
あ、目があった。
ペコリ、とお辞儀をされた。
そのまま、流れるような動作で食器を持って退室する。
あ、どうも……。
……シェイルがステラ邸のメイドは少数精鋭って言ってたけど、凄すぎじゃない?
あれだけ静かに入ってきて出てくんじゃ、そりゃ気付かないよ!
僕これでもね、人がここにいる、ていう気配読むのには長けてる自信あったんだよ?
でも全然気づけなかった。
あれ暗殺者になれるレベルだと思うなあ~。
あ、そう考えたら怖くなってきた。
〈気配察知〉の経験値集め頑張ろうっと。
シェイルの気配はもっと薄くて、半年頑張っても侍女さんたちの気配を察知するのは大変だという事を知るのは、まだ先の事。
ノアンティクでのアルバイトの話────────
「ただいま~」
「おばあちゃん、仕入れ終わったわ」
骨董屋、ノアンティクの少しだけ重い、硝子張りの木の扉を押し開く。
仕入れから帰ってきた僕とシェイルは、この店の主、エディ婆に迎えられる。
「お疲れ様、昼はもう食べてきたかい?」
「うん、今日は甘味尽くしだったよ」
「一昨日もそうではなかったか?何時か太るぞ」
「……怖いこと言わないでよ」
想像しちゃったじゃん。
僕やシェイルがブクブクに太っちゃった様子を──ってあれ?
シェイルが太るの予想できない。
流石シェイル!
「私も太ったりはするわよ」
「そうなの?」
「ただ、ちょっと太りにくい体質なだけで」
「やっぱり殆ど太らないんじゃん」
「ここ最近は太ってきたわよ」
「シェイルはスバルが来るまで昼食は殆ど取らんかったからのう」
「……シェイル?」
「えっと、はい。よく抜いてました」
じとっとした視線を送ると、目をそらしながらシェイルが肯定する。
大方研究とか開発に集中してて食べ忘れたんだろうけど。
「しっかり食べなきゃダメでしょ」
「わかってはいるんだけど……」
気付いたら3時を過ぎてることなんてざらにあるの。
と言うシェイル。
言い訳シェイル、珍しい。レア。可愛い。
でも食事抜きはダメ!
「まぁ、最近はスバルと一緒にいることで食べているから良いだろう。……じゃが、量はやはり少ないか?」
「滅茶少ない。今日だってクレープ一個だった」
「シェイル……もう少し食うべきじゃ……」
ごめんなさい……って項垂れるシェイル可愛い。
何か、僕とエディ婆がシェイルの保護者みたいな感じだ。
普段はシェイルとエディ婆が僕の保護者って感じだけど。
「さて、倉庫に品を移すか」
「あ、そうだね」
「今回は依頼の品が結構あったから、相当な数になっているわ」
「やれやれ、老体を扱き使いおって」
隣でシェイルは、老体?と首をかしげている。
エディ婆って外見はおばあちゃんだけど、雰囲気が老人じゃないもんね。
ごめんなさい、謝ります、すみません。
だから睨まないで。
若く見られるから良いと思うんだけどね。
「ほれ、さっさと倉庫に行くぞ」
「はーい」
「わかったわ」
ノアンティクの倉庫は、2ヶ所ある。
1つは、2階のエディ婆の部屋。
装飾品や、ステータス上昇効果を付加する装備等が置いてある。
もうい1つは、地下に行く奥の通路を少し行った所で右手のさらに細い通路を進んだ所。
実は、あの奥の通路、複雑に枝分かれしていて、効果の物を保管しておく所や、製錬、付加をするための部屋とかがあるんだ。
そこには、剣等の武器、服、雑貨などがおいてある。
僕たちが今日行ってきたのは、鍛冶屋。
つまり、付加依頼の武器と装備を受け取ってきた。
何時来ても迷子になりそうな薄暗い通路を、倉庫に向かって3人で歩く。
地下の倉庫はとんでもなく広い。
訓練場と比べたら狭いけどね。
そこを、武器の区画、装備の区画、生活雑貨の区画、娯楽雑貨の区画、ポーション等の薬品系の区画といった風に分けてある。
その武器の区画をさらに、剣置き場、矛置き場、弓置き場、防具置き場といった風に分けている。
僕とシェイルで手分けして、持って帰ってきた品を倉庫に置いていく。
シェイルは防具関係を受け取っていたからそっちの方に、僕は付加依頼の武器を沢山受け取っていたからそれらを置く区画の方に。
空間収納にいれていた品をどんどんだして置いていく。
剣はここ、短剣はこっちでナックルモドキはその他の分類で良いか。
矛と槍は合わせての依頼だったよね。
こっちの剣は急ぎのだったかな。
全部出し終えて、一息吐く。
「にしてもここって本当に物多いよね。埃……は、かぶってないけどずっと置きっぱなしの物の量がすごい」
「ちなみに埃をかぶってないのは、そういう魔法があるからよ」
隣から突然声をかけられてももう驚かない。
最近はシェイルの気配も感知できるようになってきたからね。
それよりもすごい魔法の存在を知った。
「え!そんな便利な魔法があるの?」
「えぇ、魔法にも、攻撃魔法と生活魔法があるのは覚えてる?」
「うん」
「その、風属性の生活魔法に、空調管理の魔法があるの」
「それで埃をつくんないようにしてるのか」
「そうよ。おばあちゃんの部屋の宝石管理庫には、この魔法が何重にもかけられてるの」
「おお~」
それで品質が変わんないようにしてあったりするのか。
魔法って凄いな。
「あ」
そんな風に考えながら、倉庫の死蔵の品を見ていたら、懐かしい物を発見した。
白い鞘に、深紅の飾り紐。
鈍く光る黒曜石のような色の持ち手は、対色の水晶のように透明で、光を多色に反射する物で編み込みがされている。
いたってシンプル。
それでいて、思わず目を引かれるとても綺麗な刀。
「エディ婆があの時売ってた刀だね」
「そういえばそうじゃったのう」
5か月前、ミーチェ・ガーデンに来たとき、エディ婆の露店で絡んできた奴を撃退した刀だ。
凄い綺麗だな~。
「抜いてみるか?」
「良いの!?じゃあ喜んで!」
丁寧に鞘から刀を抜く。
刃はさほど反ってなく、真っ直ぐとした70㎝程の刃。
切れ味よさそ~。
やっぱり真剣は重たいね。
当主さんの訓練で、普通の抜き身の剣を振る時もあったけど、刀もずっしり来るね。
……振ってみたいな~。
いやいや、これ一応エディ婆の物だしね。
「ねぇ、おばあちゃん。スバルの給料の話、まだ浮いてたわよね?」
「そうじゃな。働きに見合う金額を払ったら、量が多すぎて、現在はギルドに貯金しとるのじゃったか?」
「ええ、それでも通常料金よりかなり低いのよね」
「成る程」
「足りるわよね。刀だから買い手はこの辺じゃつかないし」
「うむ、ではそれで決まりじゃな。
スバル、それをお主に売ろう。料金は今までのアルバイト料で十分じゃ」
「良いの!!?」
「うむ」
やった~!!
明日の早朝鍛練からはこれも振ろ~と!
「いつもは、謙虚さが全面に出てくるのじゃが、余程欲しかったようじゃのぅ」
「スバルが喜んでいるから良いじゃない」
「お主は本当にスバルに甘いのぅ」
「そうかしら?」
「無自覚か……」
エディ婆が実は天人族、つまり天使で、全然おばあちゃんじゃないと言う事が判明して、貰った刀が大活躍するまで後1ヶ月。




