55話 一時のさよなら
スバル視点です
服はエディ婆に餞別として貰った物。
黒一色の、裾の短めの着物にズボン。
同色のマントにブーツ。
これと一緒に前貰った刀とそれを差す帯もセットで。
後は普段着、室内着としてステラ邸から貰った騎士服を何着か。
次に食事。
食事は食材を少し分けてもらって、その時その時に調理、だね。
例のカラフル野菜に、魔物の肉と魚。
パンと穀物に、味が迷子の果物と調味料。
お皿に鍋にフライパン。
フォークとスプーンに自家製の箸っと。
火は魔法で起こせるし、水も用意できるからそっちは大丈夫っと。
移動は馬で、寝る時はテントと毛布でいっか。
用意したそれらを〈空間収納〉にポイポイと入れる。
はぁ~、一段落。
今僕は出発に向けた荷造りをしている。
シェイルがここを離れるときに、一緒にこの街を出て、近くのダンジョン都市に行く。
今まではステラ邸にお世話になっていたけど、これからは自分でしていかなくちゃいけないからね。
もう一度確認しようかな。
現在の僕の〈空間収納〉は、教室がすっぽり入るくらい。
時間はまだ完全に止まるには至ってないみたいだね。
生鮮食品を入れても少しはもつから便利。
チェックは、プラクエみたいなのからできる。
入っているものが一覧として出てくる。
あ、そうだ。
シェイルから貰った便利道具セットも入れとかなきゃ。
シェイル曰く、魔物避けの結界を張れる魔道具や、幾つかの、僕がまだ使えない魔法が封じられた魔法珠。
察知系魔道具や通信魔道具等々、生活が便利になる魔道具が入っているらしい。
それらが入っている袋も、マジックバックって言って、魔道具の一種なんだって。
〈空間魔法〉と同じような機能が付いていて、見た目以上の量の物が入れられるみたい。
こんなものも造れるなんて、やっぱりシェイルは凄いなぁ。
背を伸ばし、凝り固まった体をほぐす。
後は挨拶回りだけだね。
ルトは、僕達が旅立ってから一週間後にサンレイズの街を出る。
見送れないのが残念だけど、シェイルが貴族位から外れるのが今日だからね。
シェイルは、リコさんとの約束を守って貴族をやめる。
簡単にはできない事だから、シェイル・ステラは今回のゲームで昏睡状態に陥り、そのまま死亡した、という事にするみたい。
そして、同時に、平民のシェイルが誕生する。
それが今日なんだ。
戸籍は簡単、と言ってはいけないんだけど、比較的スムーズに偽造できる。
でも、住民票は難しいみたい。
だから、平民のシェイルはこの街には住んでいない。
平民シェイルになる前に、この街を出なければいけない。
で、僕がシェイルと一緒にこの街を出ないわけがないからね。
だから見送ることはできない。
……見送るって考えられるのはやっぱり凄いなぁ。
殺し合った後とは思えないほどほのぼのとした感じ。
まぁ、ルトには散々恨み言言ったからね。
ん~?人がいない。
凄い閑散としてる。皆どこにいるんだろう。
挨拶したかったんだけどなぁ。
残念に思いながら中央門の方に行く。
シェイルは隣の領にあるプログレス市に、僕はそのさらに隣の領にある、初心者用のダンジョンに行く。
方向は同じだから、途中まではシェイルと一緒なんだ。
「お~いスバル~」
「シェイル嬢ちゃん待ってるぞ~!」
「遅ぇぞー」
全然人がいないな、なんて考えながら歩いていたら、中央門の方から知った声が聞こえてきた。
「皆……どこに行ったのかと思ったら」
「そりゃ見送りに決まってんだろ」
うわぁ、結構嬉しい。
僕はしっかりこの街に馴染めてたんだね。
「よう、スバル」
「あ、ケンゴ。
そう言えばケンゴはルトが護送されたあとどうするの?」
「オレは元部下たちの監視と、冒険者稼業の復活を考えてるぜ」
「どこかで会うかもしんないんだ」
「どうだろうな~。オレ先輩だし~」
「絶対下剋上してやる」
「見送りできて良かったですよ。冒険者は危険が付き物ですからお気をつけて」
「年長者の言葉って感じがする」
「オレもお前より年上なんだがな」
「えぇ~同い年に見える」
「オレはもう19だ!」
ケンゴの身長を見ながらふーんと笑う。
それにしては背がねぇ。
「煩い!オレがこっちにきたのは中二の時なんだからな!?それから成長止まっちまってるだけだ!」
「えぇ~もう伸びないんだ~」
「黙れぇ!」
ケンゴのコンプレックスは身長、と。
ケンゴをいじるのって楽しいなぁ。
「スバル、そこまでにしてあげなさいな。ケンゴの成長が止まったのは転移のせいなんだから」
「マジか!オレの背がこれ以上伸びないのは成長限界とかじゃないんだな!?」
「えぇ……」
「気にしてたんだ」
「煩ぇ!」
「スバル、お主。妖精の守人に散々コント集団と言っておきながら、お主がそういう掛け合いをしてどうする」
目立っておるぞ、と声をかけてくるエディ婆。
僕が……コント集団たちと同列!?
凄いショック。
まぁまぁ、とシェイルとルトがケンゴの怒りを収めているのを尻目に、リコさんを探す。
あ、いたいた。
「こんにちは」
「あ」
「シェイル見送りに来てくれて嬉しいです」
「……あの子、ものすごい律儀ね。私が半狂乱に成りながら口走った事なのに」
「それがシェイルですから」
「今度、この街に立ち寄ることがあったら、彼女に伝えてくれないかしら」
──約束は時効よ。偶には会いに来なさいな。
その言葉に、僕はにっこりと笑って答える。
「もちろん」
きっと、次この街にきたときには、シェイルは困ったような嬉しそうな顔をするだろうなぁ。
「あ、ヴィクターさんにアリスさん。どうもお世話になりました」
「……」
「いえいえ」
「ギルドへの紹介状もありがとうございました。これから頑張りたいです」
「……」
「えっと、ヴィクターさん?」
ヴィクターさんは上を向き、下を向き、唸り声をあげながら濃縮された青汁を飲んだような苦い顔をして、こちらを見、一言。
「娘を……宜しく頼む」
「貴様に娘はやらんって言う言葉が来るかと思ってました」
「お望み通り言った方が良いか?」
「言われても貰ってくだけですよ」
「ああああああ!やっぱり貴様に娘はや──」
「いってらっしゃい。場所を落ち着ける事になったら連絡を下さいね」
バコッという音がして、ヴィクターさんが頭を抱えて呻いている。
ヴィクターさんを殴った犯人は言わずもがなアリスさんだ。
言葉による攻撃力だけでなく、物理の攻撃力も高いんだね。
まだ若干騒ぎそうなヴィクターさんから距離を取り、シェイルの所に行く。
「挨拶は終わった?」
「うん」
「じゃあ行きましょうか」
「そうだね。じゃあね、皆」
「またいつか会える事を願っているわ」
手を降りながら街を後にする。
いつか皆にもう一度会えると良いな。
手を繋いでてくてく歩く。
特に会話はしていない。
そんなのしたら、行き先変更しちゃいそうだもん。
道が二つに別れている
僕は左、シェイルは右の道を進む。
「じゃあ、2年後ね」
「うん、いってきます」
「いってらっしゃい。私もいってきます」
2年後、また会おう。
そう約束したんだ。
それまでにシェイルを守れるくらいに強くなるために。
手を離した後は、もう振り返らない。
馬にまたがる。
後ろで魔術が展開されているのがわかる。
馬が走り出すと同時に、シェイルの気配が掻き消える。
これで第2章は完結です
何話か幕間を挟んで次の章にはいります




