47話 事件-奇跡と終幕-
シェイル視点です
久しぶりに解放した解放した神力と、行使した精霊術で体が重いわね。
今すぐその場に座り込みたい気分だけど、まだ私がする事は残っているわ。
体に鞭を打って歩く。
鉛のような体を引き摺って、街の人たちが避難している方へ足を動かす。
おばあちゃんが結界を解いたのが、目で見て確かめなくても感覚で解る。
結界の外縁で、5人の遺体の側にいるスバルの隣まで歩くと、足の力を少し抜いてその場にへたりこむ。
「大丈夫?シェイル」
心配したように聞いてくるスバルに、頷いて答える。
今は声を出すのも億劫だわ。
5人の遺体は左から、エル、セクル、八百屋の店主さん、肉屋の店主さん、魚屋の店主さんと、行儀良く綺麗に並んでいる。
セクルの頭を優しく撫でながら、周囲に集まってきた人たちを見、探し人を見つける。
その人は同じようにセクルを見ている。
「スバル、昔話をしましょうか」
「?」
「昔、ある所に神々の祝福を受けた1人の少女が生まれました。その少女は、生まれながらにして膨大な魔力と絶大的な力を持っていました」
「……」
もう誰の話かわかったようね。
それでも黙って聞き続けてくれるみたい。
よかったわ。
「しかし、幼い体はその圧倒的な力を制御できませんでした。そして、ついにある日、力を暴走させてしまったのです」
「!」
「その代償は1人の死」
大きく目を見開くスバル。
ごめんなさいね。
私はきっと、あなたが思うほど綺麗なんかじゃないの。
「その人物は1人の少女。その少女の侍女だったのです」
「あ……」
答えが解ったであろうスバルは、小さく口を開く。
「その少女の名はセクル。化け物のような私に仕えてくれる、優しい人」
「え、でも……」
そうね、セクルは生きているわ。
生きていた、だけれど。
「話は変わるけど、4日前に会ったリコさん、覚えている?」
「へ?うん」
「実はね、リコさんはセクルのお母さんなのよ」
「え?えええええ!?」
驚いたようね。
ふふふ、と笑いながらアンジェを手招きで呼び寄せる。
「ねぇシェイル。まさかとは思うけど……」
「まさか……」
「?」
半ば睨むようなアンジェ。
私がしようとしている事を察したのでしょう、小さく呟くリコさん。
訳がわからず首をかしげるスバル。
三者三様の様子を視界に納めながらアンジェに話し掛ける。
「アンジェ」
「ふん」
呼び掛けてもそっぽを向くアンジェに困った顔をする。
「大仕事ってこれの事だよね」
「ええ。──ねぇアンジェ。私は大切な人のためだったら、禁忌にだって躊躇いなく手を染めるし、この身を犠牲にするわ」
「それを僕に黙って見てろって?」
私は何も答えない。
ただ、まっすぐ見つめてくるアンジェを見つめ返すだけ。
何があったって、私の意見は譲らないわ。
その意思を感じ取ったのか、アンジェが小さく嘆息する。
「こういう時、シェイルは何を言っても考えを変えないもんね。でも!今回だけだよ。激甘神め!」
全く……と言ってこちらに来るアンジェ。
流石に今回みたいな事をそう何回もしたくはないわよ。
「スバル、セクルはどうして今まで生きていたと思う?」
「生き返った……?いやでも……」
自分が突拍子もない事を言っている、と思ているのか、下を向く。
「それで合ってるわ」
こちらをバッと見、目を見開く。
「その少女は死んでしまった少女の生を望み、禁忌の力に手を伸ばし、触れたのです」
それが死者蘇生。
私が使える禁忌の術。
転生神という、生と死を管理し、司る神との契約による転生。
それにより、私は禁忌の術──死者蘇生が可能なの。
私が原因で、大切な人達が傷ついた。
だからこそ、もう一度禁忌の術に触れることも厭わない。
セクルの胸に、アンジェと重ねた手を置き、一言。
「完全蘇生」
そう呟く。
魔法陣も、術式もない。
ただ白い光がセクルを包む。
傷を癒し、魂を掬い、修復し、体と融合させる。
淡い輝きが収まると、セクルの生命活動が再開した。
まだ冷たさ残るセクルの、それでも血が流れ、暖かさを感じる手を、ギュッと握る。
良かった。
驚いて瞬き一つしないスバルの顔がどこか滑稽で、思わずクスリと笑ってしまう。
少し元気が出たかしら?
そう考えながら膝に力を入れ、立ち上がる。
少しよろけてしまうけど、これくらいならきっと大丈夫。
「雪園」
街を、私の支配下に置く。
街にいる人、いた人、魂。
全てが見える。
「生と死による魂の永久の循環は世界の要なり
生と死による歴史の変遷もまた世界の要なり
愚者の踏む地は魔術師と女教皇が創造せし物
対となるは女帝と皇帝なり
法王は恋人とありけり
戦車に正義は潰え、隠者が隠した運命の輪が廻る
力なき吊るされた男の下に死神は現れる
節制と悪魔は相反せし
神の家に降りゆく星は、白銀の月と共に瞬く
太陽は全ての審判なり
世界は大成す
生きとし生ける者に祝福あれ
死せる者よ、ここに蘇れ
完全なる生をここに──完全蘇生」
長い長い詠唱が終わる。
ぼんやりと輝いた光が、完全蘇生の力を持つ神力が、雪に代わって空から舞い落ちてくる。
光の乱舞ね。
破壊されたり、ひびの入った石畳の上に光が落ちれば、元から壊れていなかったのかのように、行儀良く並んでいる。
倒壊した建物に光が触れれば、不完全ながらも戻り、立っている。
萎れ、踏みつけられた植物たちは、再び命の灯が灯る。
染み付いていた血の臭いは、澄んだ空気に変わる。
そして。
100を越える屍に、再び命の灯が灯る。
死者蘇生。
極めて非人道的で、嫌悪されるようなもの。
それでも。
それでも、蘇生と再開を喜ぶ人達がいる。
大切な人にはやはり、生きて欲しいと思うものよね。
少し視線をずらせば、生きている事に驚き、呆然としている妖精の守人の面々があるわ。
別に彼らを生き返らせる必要はなかった。
けれど、1つ聞きたい事があったから蘇生させたの。
マール公もね。
少し話をしたかったの。
おばあちゃんとアンジェのジトッとこちらを見てくる視線からは逃れる。
「激甘」
「うむ」
二人して呆れたようにこちらを見てくる。
言い返せないわね。
でも後悔はしてないもの!
最後に、リコさんを見、安心させるようにゆるく笑う。
「リコさん。安心してください。私は決してあの約束を破りません」
そう言い切ると、張り詰めていた神経が緩む。
もうここにはいられないわね。
そう考えながら暗く冷たい眠りについた。
──シェイル・ステラは今後、一切蘇生を行わない。
──万一それを破った場合には
──貴族位を返上し、二度とリコと接触しないことを誓う。




