46話 事件-光の子-
領主さん視点になっています
短く粗い呼吸が途切れる事なく聞こえてきます。
無論それは私の荒れた呼吸ですが。
呼吸を整えながら今日何度目かの赤い液体の薬、MP回復薬をあおり、減ったMPを回復させる。
こんな物に頼る日が来るとは思いませんでしたよ。
〈MP高速回復〉は持っているのに、それを上回る消費をしているのですから。
いえ、させられている、の方が正しいですね。
私の〈MP高速回復〉は1秒間にMP5。
しかし、中級魔法や上級魔法など、1回で200や300軽く持っていく魔法で迎撃しないといけないのですから。
正直ここまでとは思いませんでしたよ。
魔術というものと、魔法とでは、地力の差があるのは知っていましたが、600年生きてきた私の方が熟練度は圧倒的に上です。
地力と経験で実力は均衡するかと思ったのですがね。
あてが外れましたか。
私は退屈でした。
長い時を生きてきて、刺激が欲しかった。
世界に色をつけたかった。
私の父は人間で、母は光の精霊でした。
父が母を愛し、母もまた父を愛した。
つまり相思相愛です。
父は身分がありましたが、母は精霊です。
反対などされず、暖かく迎えられました。
子宝にも恵まれ、両親は幸せでした。
しかし、時は止められない。
父は死にました。
老衰です。
当然です。
人は寿命からは逃れられない。
置いていかれた母は深く沈み、私が450、人間で言う15歳、成人の年までの400年間は側にいてくれました。
が、私が成人したその日の内に母はどこかに消えました。
その後の行方は知りません。
母はいなくなり、精霊たちもまた1人、また1人と姿を消していき、私は1人になりました。
私は長寿種です。
人と関わりを持っても、その人達も次々と逝ってしまう。
いつしか私の見る景色に色はなくなっていました。
暇潰しを探し、自分が死ぬまでの時間を過ごします。
今代は、自分の小飼なるもの、珍しいものを集めてみました。
特殊なのは面白かったですが、やはり単色でした。
他の人は感情が豊かですね。
小さな事に驚き、笑い、悲しみや苦しみでよく泣く。
苦しいとき、辛いとき、胸が痛くなるそうです。
イタミ。
イタミとは、何でしたっけ。
人が苦しんでるのを見ても、人を苦しめても、何も感じない。
他人事。
どこか遠くで起きているのをただ見ているだけ。
そんな風に、何も感じない。
他人のイタミも、自分のイタミも解らない。
……ワカラナイ。
「そろそろ終わりかしら?」
鈴が鳴っているような軽やかな声。
まるで光のようです。
光の子よりも光らしい少女。
私は何を求めているのか解らない。
色を求めているのか、光を求めているのか、異世界から来たあの少年少女を求めているのか。
──お主はいったい何が目的なのじゃ。
もう私は、何を求めているのか。
その答えをとっくの昔に見失っていたようですね。
「では、終わりにしましょうか」
これに負ければ待つのは死と終わり。
勝てば……。
いえ、考えるのは止めましょう。
母がいなくなってから一度も使ったことのない力。
最後が近いのであれば、使っても良いでしょう。
〈精霊術─光の子〉
150年も使っていなければ感覚を思い出すのも大変でしょうが、ぶっつけ本番でいきましょう。
『我願う、光の精霊たちよ。その力を我が手に。その手で描くは宙を艶めく円環』
上空の光の円環に、複雑な術式が浮かび上がります。
精霊術には大きく分けて3つの種類があります。
1つは魔法陣型。
魔力ではなく霊力で魔法陣を描くタイプのものです。
次に、術式型。
術式を組み合わせるもので、円形という形にこだわらなくても良いものです。
そして、先程私がやったように、精霊語による詠唱を行う詠唱型。
言霊に近いそれを主軸に、術式型と組み合わせることが多いです。
「術式型円環」
上空に待機していた円環が降りてきて、体中に光の術式が浮かび上がる。
次いで、〈精霊眼〉を開く。
体の術式を操作し、右手に納める。
左手には、光魔術の【神秘】を展開する。
2つの術を合わせてみましょうか。
ここから先は、私も知らない領域。
どうなるかの想像など全くつきません。
「精魔術、綺伽」
光の奔流が小さくも大きな力を持つ少女に向かう。
その先で、彼女は笑い手を払った。
光の大きな流れは、攻撃として彼女を傷つけることも、現象としてこの世界に確立することもなく、霧散し、ゆっくりと消えていく。
「見事、ね。特別に精魔術の完成形を見せてあげるわ」
彼女はそう言うと、詠唱を始めます。
『我願う。我が契約者たる光の主よ。その者に祝福あれ』
光の、主?
という事は、彼女の契約精霊は……。
「氷華。──精魔術、光雪華」
私の創った荒削りの精魔術とは違う、綺麗な術。
その中で、私は静かに目を閉じます。
敵にも救いはある
それがチャーリーフールの作る作品です
領主さんが嫌いだった人にはごめんなさいです
でも悪い人じゃない、と思うよ?
あと10話くらいで第2章は終わります




