36話 事件-キレた-
自分の目が疲れで変になったのか、と目を擦るも、5人は変わらずそこに磔られていた。
全員どこか負傷している。
深く、綺麗に斬りつけられた傷。
数えるのが億劫な程の矢傷。
アザの濃い打撲痕。
治さなきゃ……。
そう考えながら、ふらりと足を動かす。
「スバル君~。しっかり現実見なきゃ~」
うるさい。
知ってる。
解ってる。
……解りたくない。
「そこの5人さぁ~、……全員死んでるんだから」
「煩い!」
知ってる!
気付いてる!
解ってる!
その5人の生命活動が止まってる事くらい!
死んでしまってる事くらい!
「ちなみに~、そこのメイドさん殺したのは私だよ~。凄い?凄いでしょ~」
死んでる、とはっきり認識させられた事で、僕の中で、何かが切れる音が、確かにした。
「何?死にたい?死にたいの?だったら喜んで死者の国まで逝かせてあげるよ」
僕の刀を召喚し、白い鞘に手をかける。
この刀は、この世界に来た初日に、エディ婆の露店にあって、絡んできた冒険者を伸したあの刀だ。
色々あって、最終的に僕がもらったんだ。
物凄く良く手に馴染むし、切れ味も良い。
……今回も良く切れるだろうね。
──スバルはまだ対人戦をした事はないわよね。先に警告しておくわ。対人戦の時、人を斬る時、血に酔わないで。
……解ってる。
──血に酔ったら、無差別に人を殺める殺人狂になってしまうわ。血を知らない異世界人は特にその傾向が多いの。
……解ってる。
──刀を抜くなら、生命の重みを忘れてはダメ。
解ってる。
──本気で剣を抜いたならば、その正義を信じるならば、堂々としなさい、スバル!
ありがとう、シェイル。
そうだね。
人を殺すなら、生命を消し去るなら、それ相応の代償が必要だ。
常に、自分も等しく殺される可能性がある事を忘れない事。
生命のやり取りをする覚悟を持つ事。
じゃあ、サヨナラ。
鞘を完全に抜き払う、と同時に極めて軽く地面を蹴る。
さっきから口うるさい弓使いからかな。
弓使いの前に立ち、無造作に刀を振るう。
直前で殺気に気付いたのか、慌てて身を屈めてる。
でも遅い。
遅すぎるよ。
袈裟斬り、という事で、肩口から斜めに斬りつける。
紙を切るのかのように、肉を包丁で切るのかのように、上半身を切り裂く。
鮮血が傷口から溢れ出る。
屈んだせいで深くは入んなかったな。
心臓にも届いてはいないと思う。
「あはっ…は……。ようやく……本気…出した~」
血を吐きながらそう言う弓使いを静かに見下ろす。
絶命はしていない。
けれど放っておいても良いよね。
この弓使いを鑑定したけど、生命補助や、回復系のスキルはなかった。
後衛タイプだったから、自分が傷つかない距離からの攻撃が得意だったんじゃないかな?
今となってはどうでも良いけど。
「良いよ。誰からでも。全員、殺し尽くしてあげるよ」
広場の真ん中で、周りの人を見渡しながら、静かにそう言う。
僕の、絶対の、殺戮宣言だ。
誰1人、逃しはしない。
ノアンティクに襲撃してきたのは、兵士30人に、店を破壊した騎士3人。
その後襲撃してきた兵士は10人程度。
騎士は5人位。
門兵君が倒したのは、エディ婆が把握する限り、20人越え。
凄いね。
エディ婆が、最初の襲撃の際に5人位倒したそうだから、退治した鬼は70人ちょっと?
そして、他のメンバーは全員この広場に集まっている。
半分以上退治したはずだけど、全然減った気がしない。
兵士10人弱。
騎士20人強。
巫15人。
副長9人。
長1人。
領主1人。
合計で、60人位かな。




