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神々の箱庭  作者: チャーリー フール
第2章 はじまり
45/99

33話 事件-脱落Ⅱ-

前話と同じ位長めです

セクル(侍女さん)視点です

 熱を持っていた通信珠の光がフッと消え、同時に粉々に割れます。

 役目を果たした魔石は、風に吹かれて街に飛んでいきました。


 シェイル様に状況を伝え終わった私は、ホッと息を吐きます。

 夕刻まで持たせれば、シェイル様が帰還される。

 であれば私の役目は、夕刻までスバル様が捕まらないように、鬼をできる限り減らす事。

 そう気合いを入れて足に力を込める。


「あ、1人発見~。やっぱり味方巻き込んだだけじゃ~ん。だっさ~。ww」


 聞き覚えのある声と口調。

 初日の!


 座り込んだ体勢から、強引に体を捻って横に飛びます。

 1拍おいて先程まで私が居たところに矢が刺さります。

 この矢の腕前。

 私を狙ったこの声の主は


「弓使い、藤井(フジイ) 由美(ユミ)

「あったり~!いや~、私も有名になったねぇ。注目一杯浴びてったらアイドルになれるかもしれないねぇ~!」


 言ってる意味が全くもって理解できませんが、ちょうど良いです。

 彼女は副長(デュプリケート)の1人。

 ここで崩しておいて損はありません。


「お!ヤル気?ヤル気だねぇ~。じゃあこっちも……殺る気でいこっかなぁ~!」


 姿はまだ捉えれていません。

 声と気配、刺さった矢の角度から位置を割り出そうとします。

 建物の陰に居た私を正確に狙撃した腕。

 気配察知の腕と共に限りなく厄介なものでしょう。


「そういえば~主様って、シェイル・ステラって子も欲しがってたねぇ~」


 声が反響して場所が掴めない!

 それに確実に動いてこちらの方に近付いてきてますね。


「ばぁ!ってわぁ!?」

「背後をとられる趣味はないので」

「後ろに目でもあるんじゃないの~」


 後ろに意識を集中していたお陰で何とかなりましたが、ここまで接近しているのに気付かないとは……。

 私の腕も鈍りましたかね。

 右、左とステップを踏みながらクロスボウの矢を避けていきます。


「うわっ、余裕で避けられてるぅ~」


 冗談じゃないです。

 私が立っていた所、しかも眉間や心臓等、急所があった所に正確に飛んでくる矢を避けるのに必死ですよ。

 音と視線と指の動きでタイミングを見計らって避けているのですから。


「で~、話戻すけど~シェイルちゃん。主様からしたら10年って半年程度の時間なんだよ?でもそれ位長く欲しがられてるんだよ~。凄いよね~。愛されてるよねぇ~」


 気にするな!

 耳にするな!

 集中力を乱すな!と必死に自身に言い聞かせて矢を避け続けます。


 攻撃がどんどん苛烈になっていきます。

 確実に矢の数が多くなっていますし、地面に刺さって矢で、足場がなくなってきています。


「何で私じゃないのよ」


 低い襲撃者の声に、思わず動きが止まってしまいます。

 ダメ!

 隙を見せたら殺られる!


 慌てて身を捻るも、2、3本矢が掠めます。

 足場が少なくなり鈍くなっていた動きが、矢傷でさらに鈍くなってしまいます。

 呼吸も乱れてきていて、大分疲労がたまっていますね。


 そろそろ本当にまずいです。

 避けるので精一杯で、こちらから攻撃が一切できていません。


「私だって弓、得意だもん。私だって計算、得意だもん。私だって暗記、得意だもん。私だって強いもん!私だって綺麗だもん!」


 自分で自分を綺麗だと賞するのはどうかと思いますが。

 しかし、これだけ感情を荒ぶらせても誤射1つしないとは、副長(デュプリケート)の実力を少々舐めていたかもしれませんね。


「ねぇ、シェイルちゃんって綺麗だよね。凄いよね」

「そうですね」

「何で同じ弓使いなのに!異世界人なのに!異能(ユニークスキル)持ちなのに!女の子なのに!あの子は苦しんでないのよ!」


 矢の雨はすでに止んでいます。

 凄惨な景色となったその路地で、私は足を止めます。

 矢傷はすでに30を軽く越えています。

 痛みはなく、ただ熱さだけが、その感覚を伝えてきます。


「苦しんでいない?あの方が?」

「だってそうでしょ!あんな綺麗な、苦痛も知らない顔で!」

「ふざけないでください」


 袖口から取り出した小さなナイフを投げます。

 私はメインの戦闘スタイルは、こういった投擲系のものです。


「あなたごときが、その汚れた口でシェイル様の美しさを語らないでください」

「汚れたって……」


 呆れたような彼女の言葉等、耳にも入りません。

 そのままナイフを彼女に向かって投げ続けます。

 全て弾かれてるのが悔しい限りです。


「あの方は確かに美しい。あなたが語りきれない程に。自らの指名を全うされるお姿も。生きとし行ける全ての者を愛されるお姿も。大切なものを守るために凛と立たれるお姿も、全て。多くの事を知るあの方が、苦しみを知らないとでも?」

「っ」


 気圧されたように後ずさる彼女に向かって、一歩。また一歩と歩いていく。


「あの方はご存じです。家も親もない子供の苦しみも。魔物の脅威に怯える辛さも。傷付く痛みも。人の狂気も。裏切りも。孤独も。虚無も」


 静かに言葉を紡ぐ。

 そうでもしないと彼女への怒りが抑えられそうにもありません。

 彼女の正面に立ち、静かに睥睨します。


「あの方は、それでも前を向いてらっしゃる。だからこそ、あの方は美しい」


 心臓を確実に貫ける刃を持つ剣を取り出し、振りかざします。


「あなたとは、比べようがない程に」


 そのまま振り下ろす。

 取った!


 しかし、剣は彼女に届かなかった。


 鍔迫り合う音が路地に響きます。

 彼女と剣の間に短剣が差し込まれていた。


「比べようがない?何?私が醜いとでも言うの?」


 別にそうは言っておりませんが。

 まぁあの方と比べたら数段劣るのは事実ですね。


 答えずに上から力を込めます。

 シェイル様を貶した彼女を生かしておく気など毛頭ありません。


「何で、何であの子なの!主様が欲するのは!私は主様が大切なのに!私の方が主様を大切に思ってるのに!どうして主様は私の方を向いてくれないの!」


 それが、あなたの本音ですか。


 そう口に出す余裕もありません。

 咆哮のような声に、上から斬り付けていた力が若干緩んでしまいます。

 その隙をついて、彼女は短剣を振り上げます。

 衝撃で私が強く両手で握っていた剣は、天に向かって跳ね上げられ、上半身ががら空きに──。


 しまっ──。


 剣を手放して、両手で体をガードするよりも早く、彼女はクロスボウの矢を放つ。


「あ──」


 胸から、ほぼゼロ距離から放たれた矢が生えています。


 早く、魔法で治さないと、と思っても、体が思うように動きません。

 膝から力が抜けて、カクンと膝をつき、そのまま地面に倒れ伏してしまいます。


「それ、うちのリーダー特製の毒矢~。即死性なのに何で死なないかな~。怖、怖」


 そう言いながら、彼女は私を見下ろしてきます。

 口調は元の間延びしたものに戻ってきていますね。


「私の方が綺麗に決まってるじゃん。そうだよ。そう、決まってる。あ~、そういえばさぁ、主様。シェイルちゃんをこのゲームが終わったらスバル君を使って取り入れるんだって~。私達の所に来るんだよ~」


 若干楽しげに嗤う声がします。


「だ、か、ら、私があの子をぐちゃぐちゃにしてあげるよ~。……少しでもあの子に綺麗な所を残したくないからね」


 ふざけるな、と。

 そう言いたいのに、口が動いてくれません。

 毒が回ってきているのでしょう。


 そして、この弓使いの、狂気に近い不安定な感情にゾッとしてしまっています。

 暗い、闇のような、ヘドロのような、重たい狂気。

 毒で感覚がなくなった背筋がゾッとするような気がします。


「じゃあ、ばいば~い」


 シェイル様、申し訳有りません。


 そう懺悔しながら、私の意識は暗闇に飲み込まれていきました。

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