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神々の箱庭  作者: チャーリー フール
第2章 はじまり
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32話 事件-脱落Ⅰ-

いつもより長くなっています

エル(門兵君)視点です

「鬱陶しいっ」


 そう吐き捨てて、俺、エルは追っ手を切り捨てる。

 スバル様とセクル様と別れて3時間は経った。

 周囲は完全に闇に満ちている。

 建物の壁に肩を預けて、乱れた呼吸を整える。


 一番最初の襲撃者である弓使いの女は見失ってしまった。

 それから間を置かず、殺気を纏った襲撃者が立て続けに来た。

 その数が10を過ぎた後からは数えるのを止めた。

 一戦一戦が濃密で、ギリギリ、とまではいかないものの、簡単に気を抜くことはできなかったのだ。

 疲労が蓄積するのが迷惑なほど早い。

 数を数えている余裕など無いのだ。


 最初に襲ってきた一人を尋問した所によると、領主によるゲームだと言う。

 巫山戯るな。

そんな下らない物にシェイル様やスバル様を巻き込まないでもらいたい物だ。


 俺がシェイル様に会ったのは、シェイル様が6つになられた頃だった。

 当主様と共に、鳥系魔物の討伐をしていた時だった。


 当時俺は、冒険者として活動していて、Cランクになっていた。

 Cランク以上は討伐隊に強制参加なのだ。

 今思えば、Cランクになっていて本当によかったと思うな。

 討伐隊に参加してなければ、このような出会いはなかったのだろうから。


 鳥系の魔物の活動が多く見られ、繁殖の可能性有り、という事で緊急クエストだった。

 討伐ポイントまで、無事にたどり着いた。

 そこで卵を見つけ、全て割る事もできた。

 討伐は順調に進んでいた。

 このまま範囲を広げて森の奥まで進んでも大丈夫だろう、という事で森の深部に足を踏み入れた。


 それが失敗だった。

 緊急クエストなのだから、危険な物であるはずなのに、道中危機がなかったため、弛んでしまっていたのだ。


 深部を進めば進むほど、確実に魔物の数が増えていった。

 気付いた時には、30人の冒険者は周りを埋め尽くす程囲まれてしまった。


 脅威度(リスク)Sの魔物、コカトリスや、脅威度(リスク)Aの魔物、ガルーダ5羽以上。

 脅威度(リスク)BやCの魔物など、数えるのも億劫なほどいた。


 討伐隊の面々が絶望一色になったのは当然の事だろう。

 Cランクの冒険者は、1対1で脅威度(リスク)Cの魔物に対して勝利を納める事ができるのだ。

 周囲を囲まれるほどの大群を前にして、心を折られるなと言う方に無理がある。


 唯一の希望を考えるならば、Sランク冒険者のドラゴンスレイヤーであるギルドマスター──つまりは当主様──がいた事だが、死者ゼロは絶望的。

 全滅すらあり得る状況なのだ。


 何故こんな事になったのか、と皆一様に心の中で悪態をついた。

 当然の事ではあるが、このような心境に皆陥っていて、使い物になる者など、1人もいなかった。

 かくいう俺もその1人ではあったが。


 その様子をギルドマスターは見渡し、一言呟いた。


「これは限界かな……」


 その言葉を聞いた全員が文字通り絶望の淵に叩きつけられた。

 もう生存は絶望的だと、ギルドマスターはそう考えているのだと思った。


 でもそれは違った。


「シェイル、お願いできるかな?」


 ギルドマスターは、馬車に向かってそう言った。

 実は、サンレイズの街からここまで、1つの馬車がずっとついてきていたのだ。

 否、馬車と言うのは語弊があるかもしれない。

 馬がいるべき所には何もなく、車輪は2つではなく4つだった。


 シェイル様が試しに創った魔導車だったのだが、当時の俺にそれを知る術はなかった。

 ただ、不思議な乗り物だ、と思っただけだった。


 その馬車のような箱の中から、少女の声がした。

 幼い、5、6歳の少女の声だった。


「よろしいのですか?」

「これ以上やったら全滅してしまうからね。重傷者も出てるんだ」

「わかりました」


 馬車(?)の扉が開き、1人の少女が降りてきた。


 新雪のように白いさらさらの髪は、肩口で切り揃えられている。

 紅玉(ルビー)青玉(サファイア)の宝石のような瞳。

 神に造られたのかのように完璧なまでに整った顔立ち。


 髪色と同じ位白い肌の華奢な体躯は、この時期には似つかわしくない、長袖のコートが包んでいる。

 折れそうな程細い指が支える本が、その少女の小ささを際立たせていた。


 足音1つ立てずに歩く様は、お手本のように滑らかで綺麗だ。


 思わず見惚れていた。

 忌み子の少女なのに。


 頭のてっぺんから爪の先まで、徹底的に綺麗なその少女は、本を持っていない方の腕を緩やかに持ち上げる。

 そして、静かに何かを呟いた。


「……雪?」


 誰かが小さく呟いた。

 今は初夏だというのに、白い雪が降っていた。


 あの少女がやったのか、と確証もなくその少女に目をやる。

 その少女──恐らく名はシェイル──は何かを探るように瞳を閉じていた。


「コカトリスをお願いできますか?」

「コカトリスだけで良いのかい?」

「はい」


 再び瞳を開いた少女はギルドマスターにそう言う。

 水色のリボンのついた手袋をはめた手を広げ、その少女は魔方陣を描いた。


 目に追えない程の速度でできた、高度で複雑なそれは、淡い幻想的な光を放っていた。


「氷華」


 払うように手を動かし、そう言うと、俺達の周りを囲んでいた魔物に、氷の華が咲いた。

 正確に言えば、地面から突き出た華の形を模した氷が、魔物を貫いたのだ。


 たった1つの魔法で、何十羽もの魔物を殺してみせた。

 否、あのような魔法など聞いた事もない。

 あれは魔法なのだろうか。


 そんな事を考えている間にも、その少女は魔物を殺戮し続ける。

 戦いも知らなそうなその少女は───ギルドマスターとは比べようがないから除いて──この場にいる誰1人敵わないであろう、圧倒的な強さを持っていた。


「あっという間に終わったね」

「そちらも終わったようですね」

「後、彼らの治療もお願いできるかな?」

「わかりました」


 その少女が空中で手を返すと、先程まで降っていた雪が、淡い光になって、俺達の傷口に触れて、溶けるように消えていった。

 先程まで感じていた痛みがなくなり、慌てて負傷部を見ると、傷は綺麗に消えていて、血の滲んだ服が、確かに負傷していた事を示す唯一の物だった。

 周りの冒険者も皆、重症、軽傷に関わらず、完全に治っていた。


 助かったのだ、と状況に理解が追い付く頃には、雪は完全に止んでいた。


「ところで父様?」


綺麗な笑みを浮かべた少女の背後には、何故か般若が幻視できた。

 それよりも父様?

 ギルドマスターに向かってそう言ったのか?

 という事は、このシェイルという少女はギルドマスターの娘ぇ!?


 その少女はギルドマスターに対して、もっと早く俺達を助けておくべき、とか、注意換気を逐一しておくべき、とか、ギルドマスターの親バカをスッパリ切っていたのだが、その会話は茫然としていた俺達の耳の右から左へと抜けていった。

 ギルドマスターの娘なら、あの強さは納得できるな……。


 そうして俺達は1人も欠ける事なく無事に帰還できた。

 俺は、あの圧倒的な強さを持つ少女や、コカトリスを一撃で倒したギルドマスターの強さに惹かれ、偶然出ていたステラ邸の求人広告に志願した。

 俺を指名したのはあの少女だった。

 そして、俺はステラ邸の騎士になったのだ。


 それから5年程たった。

 シェイル様にもとに、スバル様が現れた。

 俺だどんなに足掻いても手の届かないシェイル様の隣に、あっさりと立った男。

 当主様同様に、その強さに焦がれた。


 あの時助けてくださったシェイル様や、そのシェイル様が大切にされているスバル様が。

 圧倒的に強いお二人が、自由で、縛られずに生きるその生き様。

 光のようなそれに、影など差させたくない。


 だからこそ──。

 俺は目の前の敵を殲滅させるんだ。


「剣王、ドロウスか」

「いかにも。おれの使命は邪魔者を殺す事だ」

「邪魔者、か」


 言ってくれるな。

 失礼な物言いだ。

 本命はスバル様。

 その他は余計とでも言いたいのか。


 ……そういえばこの男は〈剣の真髄〉を持っていたな。

 スバル様の〈剣道〉というスキルの下位の。


 俺はスバル様に敵わなかった。

 訓練の時に、同僚達と一緒に土の上に転がされた。

 圧倒的な強さだった。

 だからこそ俺はスバル様に、あいつの強さに焦がれたんだ。


 であるからこう考える。

 俺よりも強いであろうこいつを殺せば、少しはあいつに近づけるんじゃないかと。

 俺を友人のようだと言ったあいつに。


「俺の使命は、お前達を殺し尽くすことだ」


 なぁ、スバル。

 俺も胸を張ってお前の隣に並びたいぜ。




 そうして俺は、暗く冷たい世界に落ちていった。

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