31話 事件-救援-
シェイル視点です
「山の天気は変わりやすいと聞いていたけど、まさかここまでとは思わなかったわ」
山腹の洞窟で私は小さく呟く。
「な、言っただろ。ここはコロコロ天気が変わるんだ」
そんな私の声に返ってくる返事。
後ろにいるのはアントライト傭兵団。
私が雇った、ラート領きっての腕利き達の集まりよ。
「なぁ嬢ちゃん。何か鈴の音がしてねぇか?」
「してるわね」
この鈴の音。
私が創った小型通信魔道具──通信珠の受信音ね。
荷物をまとめて置いている所に行って、通信珠を入れている箱の蓋を開ける。
この箱には、10を越える通信珠が入っているわ。
この通信珠は1対1の通信しか行えないから、複数の人にこれを渡していれば、その分だけ私が持つ通信珠の数が増えるのよね。
光っているのは赤の魔石。
セクルに渡した物ね。
「あら、珍しいわね。貴女が使いきりのコレを使うなんて」
この通信珠は、1回魔力を通すと割れてしまうから、1回しか使えない、使いきりの物なのよ。
魔石を原料としているから、大量生産はできなくて、セクルには1つしか渡してないのに。
コレを使うという事は、余程の事かしら?
「大体察しが付くけど、街で何があったの?」
“領主が昨日の夕刻から動き始めました”
「あらあら、ほぼ予想通りね」
“はい。ただ、妖精の守人が全員動かされました”
ふーん、全員を。
自然と目が細くなる。
相当本気のようね、向こうは。
“当主様も奥様もエディ殿も動けない状況です。確実に手詰まりになっております。どうかお知恵を──”
「ねぇ、セクル」
“っ、はい!何でしょうか”
「私を、誰だと思っているの?」
薄く笑いながら聞く。
“シェイル様です”
「!ふふふ。そういう答えが返ってくるとは思わなかったわ」
間髪入れずに返ってきた答えに思わず笑ってしまう。
“シェイル様?”
「あぁ、ごめんなさいね。安心して、セクル。嫌な予感がしていたから、予定を繰り上げていて──今はプログレス市に向かっているわ」
“!?”
そう。今は、ラート領中央都市ミッドストリームと、プログレス市との直線距離にある山の中なのよ。
本来の予定であれば、移動に1日。
2日目に面会の予約を入れて、3日目から5日目にかけて対談。
6日目にプログレス市に向かって、そこで移住後の手続きの下準備や、研究員との顔合わせをするつもりだったわ。
でも、転移の許可を父様と母様から頂いて、領境の検問を経由した上で、ミッドストリームまで転移で道中を短縮したの。
そして、その日の内に面会を予約して、アントライト傭兵団を雇ったわ。
2日目には対談をして、領内転移許可証と移住に関する書類が発行され、それを受け取ったのは3日目の夕刻だったわね。
その足でプログレス市までの最短距離、つまり、山道へ向かったのよ。
そして現在、吹雪で足止め中というわけ。
「あと1刻程度で到着させるわ」
おい、無茶だろ!という後ろの声は無視する。
後1時間程度で着く距離だから大丈夫でしょう。
1時間も余裕をつけたのだから問題無しよ。
「手続きは無効にしたくないから終わらせてくるわ」
“お時間は?”
「そうね、面会予約も含めるから8時間かかるかしら?だから、知恵を貸す必要はないわ。今日の夕刻まで保たせて」
“はい!”
「私自身がそちらへ行くわ」
ゲームを、終わらせるわ。




