2話 露店
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昴は、サンレイズのにぎやかな方へ歩いていく。
ここについての情報を集めるには、人がたくさんいるところの方が、効率がいいからだ。
周囲の人の観察から始める昴。
ほとんどが欧風の人達だ。
服装は、麻のワンピースや短いズボンとシュミーズのような、年代的には17世紀位のものが多い。
髪の色は茶色から金髪まで。
瞳の色は青やら水色やらで、カラーバリエーションが豊富だ。
年齢層も見ていく。
家族層が多い。
「あれが食べた~い」
成程、お昼か。
昼?昼御飯?お昼時…。
空を見上げると、太陽がすでに中天にある。
時間を意識したこともあって昴はお腹がすいてきた。
しかし、一文無しなので、目でいただくことにする。
林檎らしき物を売っているのは、果物屋だろう。
ただ、そこに一緒に並んでいるトゲトゲした物も果物なのだろうか。
その隣は八百屋だ。緑一色のイメージだが、その反対。カラフルな野菜で溢れていた。
目をくらくらさせながら昴が見た次の店は、大きな肉──おどろおどろしい雰囲気を出している──がいくつも吊るされ、売られていた。
その向かいには、大きな魚──これまた不気味な雰囲気の──が売られている。
大通りにでると日用品や雑貨の類いが販売されるようになってきた。玩具等も売られている。
あちこちの店を冷やかしながら進むと、大きな広場の一角に、人気のない路地のすぐ隣の小さな露店があった。
店番は、黒魔術を連想させる、黒いフードがついたローブを羽織った、魔女のような1人の老婆だけだ。
おどろおどろしい雰囲気を出してはいるが、売っているのはいたって普通の服や雑貨だ。
それでも不気味ではある。
恐怖半分、好奇心半分で商品を見ていると、老婆がしゃがれた声で話しかけてきた。
「若いモン。こんな小さな露店にゃなんもないよ。見てて楽しいかい?」
『楽しいから見てるんですよ』
事実、この露店で売られている雑貨は、からくりの物ばかりで見ていて楽しかった。
老婆は、意外そうに昴を見る。
『あっ、これ弄ってもいいですか?』
『……変わった奴だね。いいよ、好きにして』
昴は、秘密箱を早速弄り出す。
昴は秘密箱のような古風なものが大好きなのだ。
上、左横、前、と動かしてみる。
暫く熱中する昴。
ふと、弄くりまわしている手元に影が指す。
顔をあげると、3人の冒険者のような格好をした男たちが露店の前にいた。
「あぁ?なんだよ、この変な店。不気味で、おどろおどろしくって」
「しかも売ってるものまでさ、そういうもんと来た」
「こんな店あっという間に潰れちまうだろ」
いきなりそう言ってくる3人にポカンとしてしまう昴。
心境としては、何したいんだろ?この人たち。といったところだ。
「あぁ?なにしてんだテメェ」
3人組のリーダーであろう男が昴に目をつける。
「何だコレ?貸してみろ」
『あっ!』
あともう少しで蓋が開きそうだった秘密箱。
それを取り上げられた昴は、思わず声を出す。
「何だコレ!全然空かねぇじゃねぇか!」
『あぁ‼』
挙げ句、からくりを知らなかったらしいリーダーの男は、箱を地面に向かって投げつけ、壊してしまった。
「何だ?文句でもあんのか?」
『文句、あるねぇ』
「あぁ?こいつなに言ってんだ?」
「わかんねぇっす」
「黒髪に黒瞳、こいつ東和の奴じゃないっすか?言葉わかんねぇし」
『わからなくて大丈夫だよ。口論する必要はないだろうから』
お婆さんそれ貸して、と露店においてあった刀を手に取る。
昴は光希に一方的に悪者にされてから、敵意に敏感になった。
3人は、最初から昴たちに敵意を向けてきていた。
その証拠として、現に今、それぞれ持っている剣を抜いて昴の方へ向かってきている。
それでも昴は、落ち着き、自然体である。
周囲から悲鳴が聞こえる。
これが普通じゃないとわかり、昴は安心して刀を構える。
剣が昴の体に届く直前、静かに昴の刀が動いた。
次の瞬間、3人の剣は空を舞っていた。
『うん、よかった。この世界でもしっかり通用する』
昴はそう言って、陶器のように白い鞘を撫でて笑う。
『僕は剣道の六段なんだ。といっても伝わらないだろうけどね』
そう言って、3人を昏倒させようと踏み出す。
が、すぐその足が止まった。
男たちが勝手に意識を失ったからだ。
あれ?と首をかしげる。
理由はすぐ解決する。
「誰か頼めるか?」
露店の老婆が見ていた人たちに言う。
「あ、じゃあオレが連れてっとくよ」
「助かるよ」
1人が名乗り出て3人をまとめて運ぶ。
えっ、すごい。と昴はその人を見ていたが、隣から呼び掛けられ、振り向く。
『あと少しで店の方に客が来る。話したいこともあるし、ついといで』
老婆はそう言って、露店の商品を片付けていく……って消えた!
1ヶ所にまとめた商品が一瞬にして消えた。
魔法か?と目を輝かせる昴。
昴はそういうものが大好きなのだ。
狭い路地裏を歩いていくと、不気味で、一見さんは入ってこないどころか、道の端ギリギリまで避けて通りそうな雰囲気の店があった。
中に入ると先程の露店同様、置いてある品はまとも、というか普通だった。
『若いモンにはこれがいいかもな』
一度店の奥に行き、何か小包をとってきた老婆は、一緒に持ってきた、漆黒の風呂敷包みを昴に渡す。
『……呪いとか……かかってないですよね……』
断るよりも先にその言葉が口から出ていた。
老婆は呆れたような顔をする。
『失礼だね。そんなモンは売らんよ』
『そうね。おばあちゃんが本当にそんな物売ってたら、このお店潰れちゃう。』
否定の言葉が2方向からとんできた。
1つは老婆の方から。
ではもう1つは?と声のした方──店の入り口──を見ると、頭巾を目深に被った少女がそこに立っていた。
『こんにちは』
と少女は昴に向かって笑いかけた。
運命の歯車が、確実に動き出した。




