14話 領主 メカルト・マール
イザデラの領主、メカルト・マール。
世襲制で受け継いだ座にも関わらず、類稀な経営手腕で領内を発展させている。
が、これは表の顔。
よくある貴族の仮面によるものに過ぎない。
裏では領地経営で得た多額の金を使い、好き放題をしている。
この男は性格が非常にひねくれていて、相手が嫌がることを好んでする。
他人の不幸は蜜の味、とでも言うように不幸を好むのだ。
例えば犯罪を犯した農民を裁くとき、本人が罪を犯した理由を聞き出し、調べ出し、罪人が1番苦しむ選択をさせる。
それが罰になっているから始末に終えないのだ。
苦痛に歪んだ顔が、絶望した顔が、泣き叫ぶ姿が、苦悶する姿が何よりも好物なのだ。
罪悪感が全くない男ではあるが、世間体を気にする意識はしっかり持っていて、間違えても対外的な外交ミスをしない。
イザデラの領地、この男の王国で惨劇が起こるだけなのである。
そして、この男は優れた者を求める。
異能を持つ異世界人は、真っ先に狙われる。
だからこそ、まだスバルと接触していないとわかって安心したのよね。
とりあえず、今は店番として振る舞わなきゃ。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用で?」
慣れ親しんだ貴族の仮面をつける。
表情から感情を廃して、作り笑いを、微笑をのせる。
「奥にいる彼に少々用がありましてね」
低く落ち着いた声に肩が震えないようにする。
気付かれている。
どこから?いえ、ずっと前から見張られていたのでしょうね。
会話も聞かれていたと考えるべきかしら?
「彼、とは?」
でも、ここではあくまで町民として、おばあちゃんを手伝っている立場。
この店に男性はいない事になっているのよ。
何を聞いてるのかわからない、という風に小首を傾げて見せる。
「隠す必要はありませんよ、ステラ嬢」
こちらは隠したいのですがね。
しかし、これ以上の問答は危険なのは事実ね。
町民に扮していれば、知らぬ存ぜぬで通せるけど、身分が足りないわ。
仕方ないわね。
「マール公。彼はボアナ様の庇護下にあります」
彼女は貴方より身分が上よ。
貴方にはもうこれを覆せないわ。
だから
「お引き取り下さい」
「彼女はすでに貴族位ではないはずですが?」
「彼女が何故貴族になったのかをお忘れですか?」
彼女の種族。
それは特殊であり、特殊すぎるが故に人族は貴族として留めようとしたのよ。
そのために貴族位を与えたあの帝国が、彼女という存在を簡単に手放すはずがないでしょう。
「……仕方ないですね。彼女が出てきては分が悪い。今日はここまでにしておきましょう」
もう二度と来ないで下さい。
そう心で呟きながら、見送る。
しかし、スバルの存在を嗅ぎ付けられてしまったわね。
彼の事だから手を変え品を変え、必ず再び接触してくるわ。
スバルに話しておくべきかしら?と考えながら店の奥に目をやると、ちょうどスバル達が戻ってきた。
まるで図ったようなタイミングね。
というか図ったのかしら。
ありがとうね、おばあちゃん。




