第47話 お兄さんお兄さん!いい薬、ありますよ?
道化師は何をすればいいか。
決まっている、皆を笑顔にする。
大切な人たちの笑顔を見るために、ここから先は一手も間違えることは出来ない。
————問題はない。ピエロは常に、笑顔で何でも出来るのだから。
「さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今宵は自称勇者なあなたもゲテモノ好きな女騎士さんも短剣な嫁も死者の王様もみーんな皆ご招待!」
大きな声が室内いっぱいに響き渡り、剣戟の音が止む。
「ト、トルト?……お、お前なにしてんの?」
「やだなぁジョンさぁん。見ての通りジャグリングですよぉ?」
道化師は笑いながら柄に小さなボールが付いた短剣を何本も宙に投げては指の間でキャッチし再び投げている。
誰もが状況を理解できない中、ピエロの踊りは続く。
「さてさてお次はこの短剣をほいっ!からの……ほいっと!!」
7本以上あった短剣を全て宙に放り、袖から出した新たな短剣で、今投げた短剣に付いていた風船を全て叩き割る。
瞬間、ボフンッ!!!という音とともに部屋全体が七色の煙に包まれた。
「………下らぬ」
「さぁさぁそれはどうでしょう不死王様? 今宵はお祭り! しかしあなたの元に向かうのは美女ではなく可愛いボールたち!」
カラフルなボール達は正確に不死王の懐目掛けて殺到する。しかし、
「人間、舐めるなよ?」
漆黒の影を纏った剣はすぐさまボールを切り払った。
「アッハハハ!そちらこそ―――道化師を舐めるなよ?———」
———パシャッンッッ!!!———
「っっっ!?!ァアアアアアアアアアアアアア!!!!」
仲間のものでは無い、痛みへの怒りに満ちた咆哮。
暫くその苦痛に満ちた叫びが続き、煙が晴れていくのと並行して徐々にその声も小さくなっていく。
「はぁ……はぁ……貴様ぁ……!!!」
半分以上肉が落ちていた顔は――――裏腹に急速に肉が回復しており、さきほどまで淀んでいるようだった声すらいまではクリアに感じる。
―———そう、不死王の体は、先ほどよりもはるかに人間へと近い体になっていた。
「……何故?」
ミレイが剣を構えながら困惑していると、いつのまにか二人の後ろにいたトルトが笑いながら解説する。
「それは簡単!あの男は肉体が不完全故に最強! 自分の肉をバラバラにして回避もヨユー!痛みもないし命が無いなら死ねもしない!!あナラァ? 死すら治してしまうチートな回復薬なら実はその体すら生のある体に出来ちゃったり出来なかったり? 」
「オノレ……オノレ……我が……オレが……道化師風情にィィイイイイイイイイイ!!!」
不死王は血走った目でトルトたちに襲い掛かる。が、肉体が重りになっているのか、先ほどの勢いは確かにない。
「よし!このまま一気に!」
『馬鹿か貴様! 奴は今怯んでいるだけだ! すぐにまた自身を壊して元の状態になる。今は退け! ではければ私が殺す!』
飛び出そうとするジョンに短剣から鋭い声が届く。
全員は頷くと、一気にもと来た方向へと駆けだした。
「ニィイイイイイイイイイイイガアアアアアアアアアスゥウウカァアアアアアアアアアア!!!!!」
呪いが勝った叫びと共に爆発的な勢いで跳躍してきた不死王の拳は、最後尾にいたトルトを捉えていた。
『っ!? マスター!!?』
パンドラの声で振り返るが、勢いからして短剣で防げるものでは無い。
とっさに両手で顔を覆うが、突如ムワッと暑苦しいような空気が体を撫でた。
「ハッハー!! 背筋をもっと鍛えてから、こう殴れ! ヌゥゥゥンンンンンン!」
不死王の拳は,突如乱入してきた拳で吹き飛ばされる。
「!!!おやおや!トラヴィスさん! こんな道化師を助けに?筋肉サイコーーーー!!」
「そうだろうそうだろう! ちなみに瞬発力と背筋を鍛えるならスナッチをお勧めする!」
ジョンとミレイはチグリスと合流しているようで、三人全員から早くしろという怒号が響く。
道化師は後ろに一つ煙幕を投げながらその場から逃げ出す。その顔は、表面上は満面の笑みだったが、内心は汗だらだらの涙目であった。




