第38話 フレイムタイラント
バレンタイン山脈頂上付近、灼熱の大地の気温を更に上げるのは辺りに敷き詰める大量の溶岩石。
その溶岩石一つ一つに手足のような部分があり、よく見るとキチンと目、口、鼻と顔面のパーツもそろっておりそれぞれの個体が独立して蠢いている。
「フレイムタイラントの大軍……密集しているととんでもねーな、どうすんのよコレ」
ジョン達一同の目的は火山頂上方向でミレイが目撃したというフェニックスの幼体。しかしそこにたどり着くにはこの溶岩魔人の群れを突破しなければならない。
ジョンがその方法に頭を抱えたところでミレイが一歩前に出た。
「私が道を開く。皆はカバーして」
「お、おいミレイ、一体どうするつもりだ?」
ジョンの心配も当然である。
このバレンタイン大火山で遭遇した相手の中では不死鳥を除けば間違いなく最強の戦闘力を誇るだろうフレイムタイラント。
実際にミレイも何度か相手し仕留めてはいるがそれもほぼ一対一かそれ以上に有利な状況をつくっての事だった。
「今日までの戦いで大体わかった。フレイムタイラント達は固くて力もあるけど、動きは遅いしそんなに頭も良くない。だから戦い慣れた私なら普通に戦えそう。それに……」
そう言いながらミレイは暗黒剣を抜剣した。
一度抜かれればミレイの身体を乗っ取ろうとしたり、もしくはミレイが暗黒剣を使いこなしたりとなんらかのアクションを起こすことが多かった暗黒剣だが、今この場では瘴気を発する事もミレイの人格が変わる事もなく平然としている。
「暗黒剣もなんだか最近は素直みたい」
鈍く煌めく刀身を見つめるミレイを見て、ジョンもまた思い出した。
先日のフレイムタイラントとの戦いでもミレイは確かに暗黒剣を抜いて戦っていた。その際も相手の炎を吸収し、また相手の肉体をえぐるように切り裂きながらも、ミレイの精神に変化は見られていない。
バレンタイン大火山の特殊な環境がそうさせているのかミレイ自身が暗黒剣を使いこなせるようになってきたのか、もしくは先日暗黒剣が炎を呑みこんだ際非常に熱がっていたためフレイムタイラントの炎が口に合わずアンデッド相手と同様テンションが下がっているのか。
なんにせよノーリスクで暗黒剣を使いこなすミレイは、単純に強い。高熱且つ強固な肉体を持つフレイムタイラントには最大の戦力になる事は間違いないだろう。
「わーったよ、そんじゃミレイ! いっちょあのフレイムタイラント共をかき乱してくれ! お前の動きに合わせて俺たちも動く。トルト、チグリス、お前達もそれでいいな?」
ジョンの言葉に他の二人も頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇
宣言通りミレイを先頭にフレイムタイラントの群れに斬りこんでいく。
とは言っても全くの考えも無しに突撃をすればすぐに囲まれてしまうだろう。ミレイは地形と相手個々毎の位置を見極め、決して囲まれないようなるべく大岩などを背にしながら端の個体から攻撃するように立ち回る。
暗黒剣がフレイムタイラントに振れればその箇所は大きく抉れ暗黒剣に吸収されるように消えていき、後続のフレイムタイラントが炎を吐けばミレイは暗黒剣を盾にし炎を吸収、もしくは跳ぶような身軽な立ち回りで回避しながらも相手同士が同士討ちするように動き回っていた。
それでも別の角度から迫る個体に関してはトルトがナイフや透明のプレート等をフレイムタイラントの目や首を狙う事により相手の注意をそらす。そしてその隙にミレイはまた囲まれない方向に跳び回り悪い状況をつくらない。
ミレイの方へばかり敵が集中するのを避けるためにジョン、チグリスもなるべく多くの個体を一度に相手にしない様に立ち回る。
ジョンの聖剣はフレイムタイラントの炎も問題なく弾き飛ばし、勢いをつけた剣撃はその岩の身体も容赦なく切り裂いた。
「フレイムタイラントが大根のようだ! ……とまでは言わねえがやっぱこの剣スゲーな! こんな岩の塊相手にも十分戦えるぜ!」
生物と鉱物の中間のような存在であるフレイムタイラントは多少切り裂いた程度では簡単には動きは止まらない。かといってゴーレムやスケルトンほどダメージに鈍すぎるわけでもない。
相手の攻撃は貰わない様に回避や防御を重視しながらも着実にダメージを与える事でフレイムタイラントはいずれは動きが鈍る。その鈍った相手の急所をチグリスが狙う事で着実に一体ずつ仕留めていく。
相手は数は多い上に生命力も高い魔物。しかし、ジョンたちは相性とチームワークを活かす事で長期戦に成りながらもフレイムタイラントの群れ相手に無事勝利を収めた。
「コイツで……終いだ!」
最後の一体を仕留めたジョンは汗だくになりながらもその場に座り込み、辺りを見渡す。
聖剣による大きな傷、もしくは真っ二つになり倒れたフレイムタイラント。トルトの武器がいくつも突き刺さり更にチグリスに喉を掻っ捌かれたフレイムタイラント。もっとも多いのはミレイの暗黒剣に喰われ原型を留めていないフレイムタイラント。
その数軽く50以上。既に動かないそれらを見てジョンは呟く。
「あ~疲れた……まったく、よくやったよ」
「しかし……こんなに疲労しては……不死鳥相手は難しそうですね……一旦船まで戻りましょうか?」
息を切らし、同じく座り込んでいるトルトがジョンに話しかける。チグリスとミレイも疲労困憊なのだろう。同じように息絶え絶えで地面に座り出した。
「あ~……そうだな……今日は流石に……」
ジョンがそこまで言いかけた所で火山口から花火が上がるような音がした。
一同はそちらを向くと、火山口から疲れを忘れるほど美しく煌めく炎の鳥が真っ直ぐに上空に上っていく様子が目に入る。
その炎を瞳に反射させながら、ミレイがゆっくり呟いた
「不死鳥……」




