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イクスアルディア戦記~俺とピエロと暗黒剣~  作者: 斎藤秋 & 弧滓 歩之雄 & 林集一 & 魔王さん
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第4話 怪しい少女


 

 3人がゴブリンと戦う様子を丘の上から見ていた少女は言った。

 

「ゴブリンさん達、みんなやられちゃったわね。せっかくお嬢様に頼んで向こうから連れてきてもらったのに」

 

 その呟きは風に消えた。

 

 少女は丘の上からゆっくりとした足取りで降りていく。そして戦いが終わった直後の3人に話しかけた。

 

「お姉さん達強いのね」

 

 ジョンはその声を聞いて初めて丘に少女が立って居る事に気付いた。ジョンは、なぜこんな所に少女が居るのだろうと思った。ここは先ほど戦ったゴブリンのように危険な魔物が居る場所なのだ。そんな所に少女が1人で居るなど不自然以外のなにものでもなかった。

 

「嬢ちゃん1人なのかい?」

 

「1人だよ。今そっちにいくわね」

 

 特に警戒する様子もなく3人の元に少女が降りてきた。歳は10歳にも満たない様子だった。

 

「強いお姉さん達にお願いがあるんだけれども」

 

 少女は言った。

 

《少女の血だ! 少女の血を我に与えよ!》

 

 ゴブリンキングの血を吸って調子に乗っている暗黒剣が叫んだ。暗黒剣に精神を乗っ取られたのかミレイ本人からは反応がない

 

「あら、ビキニのお姉さん珍しい剣を持っているのね。私の血は美味しくないわよ」

 

《ゲッ! 俺こんな奴の血いらねえや……》

 

 それを聞いた少女が暗黒剣を睨むと、それから暗黒剣は眠りに落ちてしまったのか黙ってしまった。

 

「おい、さっき暗黒剣はなんて言ってたんだ」

 

 暗黒剣が沈黙すると共にミレイも倒れ込んでしまった。ジョンはすかさずミレイを抱き起こした。

 

 トルトはどうすれば良いのかわからない様子でオロオロとしていた。その様子を見るように少女はトルトに近づくと、顔を傾けながらトルトの顔を覗き込んだ。

 

「おじさん、面白い顔しているね」

 

「面白い顔だってよ。良かったなトルト、ピエロとしての本領発揮だ」

 

「この状況じゃ嬉しくありませんけどね……」

 

「詳しい話は後でするわ。あちらに私の家があるから招待しますわ。そこのビキニのお姉さんも疲れているみたいだしね」

 

 少女の正体は不明であるが、ジョン自身も疲れてしまっているし、ミレイも倒れているので素直に少女の申し出に乗る事にした。まぁ、今のところトルトは戦力にカウントしないほうが良いだろう。

 

「ありがたいな。そうするよ」

 

「物わかりが良いですね」

 

(物わかりって何だ、明らかに怪しいじゃねえか)

 

 少女の笑顔はやはり不気味だった。

 

 ジョンはミレイを抱き抱えて少女の家へ向かった。トルトはその後ろをオロオロと付いてきた。今の性格のトルトは今にも逃げたそうな様子だったが、美女2人を見捨てて自分だけ逃げる程の性格ではなかった。


 少女が歩いていった先には家と言うには立派過ぎる屋敷が建っていた。漆喰で固められた白壁に窓はなく、大きな観音開きの扉だけが重厚な存在感を放っており、2階建ての高い屋根には真っ黒な瓦が乗っていた。


「あのー、あの重そうな扉を開けられないと中に入る資格がないとか言ったりしません?」


「うーん、玄関開けられない位非力なら帰れって言いたくもなるけど、別に入っても良いわよ」


「そ、そう?じゃあ遠慮なく。いやー、ここ数日スプーンより重い物持ってなくてさー」


「滑ってる……」


  少女は一言でトルトをバッサリ切ると、重そうに見えるドアを片手で開けて屋敷の中に入る。そして、先程のミレイを彷彿とさせる怪しい笑顔を見せて客を中に招き入れる。ミレイを抱えたジョンとトルトを中に入れた後、扉は自動的に閉まった。


「いや、多分それ本当。考えてみたらこのオッサン馬車の中でも夜営の時でも何の手伝いもしなかったぞ。ああ、料理は女の仕事がなんたら言ってたな」


「サイテー……」


「いや、ほら、短剣投げて鹿仕留めたじゃないですか」


「解体はミレイがしたし、片付けもしなかったがな」


「いや、この話重要です?何かこのエピソード今必要ですかね?」


  ジョンとトルトはしょうもない事を言いつつミレイを来客用のソファーに横たえて、ジョンはミレイの膝枕をするように、トルトは膝の上に脚を乗せるように腰掛ける。


「まぁ、場が和んだし、許してやるよ。で、お前は何なんだ?こんなところに一軒家があるなんて聞いてないぞ。それに、ゴブリンはこの家の近くから出て来なかったか?」


「うん、ゴブリンキングさんはこの屋敷の召し使い。それをこう、惨殺されちゃって困ってるんだ」


  少女は、半分「やはりか」と言う事を言い放った。天秤に乗せられた場の雰囲気が銅貨数枚分ほど緊張の方向へ傾く。


「……お前は何者なんだ?見た感じは少女だが魔物のにおいがプンプンするぞ」


「魔物……じゃなくて魔族ですわ。ああ、それでさっきの話に戻るのですが、お願いしたい事があるのです。婿にする良い男を探してるんですが、良い男に心当たりはありませんか?あ、自薦でも構いませんわ」


「オジサン立候補しちゃおうかな」


「……。トルト、絵面最悪だぞ。間違いなく衛兵が来るレベルで」


「はは……。冗談ですって冗談。ねぇ、ジト目やめて、ジト目!ジョンさんあなた男の子じゃないですか……!ヤメテ!」


トルトはオーバーリアクションで精一杯ふざけている。それに釣られて場の雰囲気が銅貨数枚分ほどリラックス側に傾く。形容するなれば腐ってもピエロと言うのだろうか、コミュニケーションの場に於いて空気の操作が非常に上手いのだ。


「オジサンは心臓が強くて、朝が早くて、足が遅いですか?」


「そうね。うん。心臓には毛が生えてると言われますし、年取ってから朝早く起きるようになったね。足はこう、お腹が邪魔で走りにくいね。うん」


「じゃあ魔王様の御嬢様の所に婿入りしませんか?」


 此所に来てトルトとジョンは予想外の一言を受ける。少女が魔物だか魔族だと言うのはこの怪しい館やゴブリンキングの件で何となく予想の付いた部分ではあるが、その魔族の少女の目的が魔王王女の婿探しだとは思っていなかった。精々「お前らを食べてやるー」だと高を括っていたのだ。それならば、ジョンもトルトも多少の対応策があったからここまでノコノコ付いてきたのだが……。そして、少女の表情から嘘は言っていない様子だ。その様子を受けてジョンが返す。


「因みにさっきの条件って何の為の条件なんだ?」


「1人目の婿は御嬢様を見て心臓麻痺で死んで、2人目の婿は寝ぼけた御嬢様に食べられてしまって、3人目は畏れ多くも逃げ出しました。だから、心臓が強くて、朝が早くて、足が遅い人です」


  


※この話で覚える事

・少女怖い。少しポンコツ。

・魔王の娘怖い。

    

 

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