第35話 ハッピーヴァレンタイン
更新が遅れております。ストックもなくなってきましてので、不定期更新にいたします。
このていたらくではありますが、今後ともよろしくお願いします。
────バレンタイン大火山
標高1000mを越える巨大な山であり、火山の影響か気温は極めて高く草木などは殆どない荒れた鉱山。
噴火自体はここ100年以上起こった記録はないが、道は荒れに荒れており場所によっては溶岩が露出している箇所もある。
その生活のし辛さ、不死鳥を筆頭とする魔物の戦闘力及び数からこの地で人間等皆無。それどころかは寄りつく冒険者すら殆どいない死の大地。
そこに今、一隻の船が到着した。
「ここがバレンタイン大火山かー、なんつーかメッチャ暑いな」
船から降りたジョンが額の汗を拭いながら開口一番感想を言った。
「というか暑すぎますね。登って行けば暑いどころか熱くなって来るでしょう。魔物の層も厚いらしいですし、これは現実逃避のために杞憂病が篤くなりそうですね」
「トルト、恐らくダジャレのつもりだろうが訳の分からねー上なんかムカつくから冷えるどころかぶん殴りたくなるくらい体感温度が上がったんだが」
ジョンとトルトに続いてミレイとチグリスが降りる。
ビキニアーマーであり軽装なミレイではあるが、逆に日差しが肌に当たり並以上に暑そうだ。
そんなミレイにチグリスが手持ちの水を手渡ししている。水を受け取ったミレイは変わりにタオルをチグリスに差し出すと、チグリスはそれを受け取り自身の汗を拭う。
お互い一言も言葉を発していないというのに妙に意思疎通が出来ているようだ。互いに無口なだけ分かり合えるところがあるのかも知れない。
そんな二人のやり取りを見ながらジョンはトルトの方を向き直ると、軽くため息をつき再びバレンタイン大火山の山頂へ目を向けた。
「そんじゃま、ボチボチ行くか」
◇◇◇◇◇
荒地を歩くこと早数十分、容赦なく体力を奪う熱気が更に増したように感じた頃、岩陰から聞こえるうねり声に一同は足を止めた。
「なんかいるみたいだな」
「声からして魔物の類でしょうねぇ」
火山の熱気に既に汗だくとなっているジョンとトルトがやや投げやりに言い放つ。
しかし先は長く、魔物が出る事も想定済み。この程度でめげている様では不死鳥の嘴入手など到底不可能だろう。
そこまで理解しているジョンはそれ以上は何も言わずに聖剣を声の方向へ構えた。
「グルルルル……」
岩陰から姿を現したのは全長1、5メートル程もある犬の魔物。
大きな牙と吊り上った真っ黒な目も恐怖ではあるがなんといっても紅蓮に燃え盛るその体毛が真っ先に目に入る。
「フレイムウルフ……なんかさっきから余計に暑いと思ったらコイツが原因の一つか……!」
「ほら、私が言った通り熱くなってきたじゃないですか!」
二人が言い放つ中、ミレイとチグリスが無言のままフレイムウルフの方へ駆け出す。
「グルアアァッ!!」
その二人に向かってフレイムウルフは大口を開け、火球を吐き出した!
身軽な二人はその火球をそれぞれ左右に躱す。
────火球を二人が回避した事により、それはそのまま真っ直ぐに跳びジョンを襲う。
「うお!?」
暑さでとっさの判断力が欠けていたジョンはそれの回避が間に合わず、反射的に聖剣を火球へ振るう。
火球と聖剣が触れた時、火球は鏡に当たった光のように直角に進行方向を変え、あさっての方向にある岩場に激突した。
「な……この剣……エネルギー反射効果もあるのか!」
聖剣を手に入れてから素振りや試し切り等で、扱えるような練習はしていたジョンであったが、鋭い切れ味と殆ど刃こぼれしない事以外には、聞かされていた邪悪なモノの浄化効果しかないと思っていた。
自分が行った事に驚くジョンは尻目にミレイとチグリスの剣はフレイムウルフを捉えていた。
「グルオルアアアァァッ!!」
しかし剣が当たる瞬間、フレイムウルフが吠えると燃え盛る体毛の勢いが増し、剣士二人を怯ませる。
────予定だったのだろう。いや、確かにミレイはその行動に対し剣を止め飛び退いた。
しかしチグリスは全く怯むことなく、その炎の塊にそのまま長剣を振るった。
「ギャンっ?!?」
予想外の一撃にフレイムウルフはのた打ち回ると、素早く岩陰の方へ逃げ出そうとした。
しかし、それも叶わなかった。トルトが既に透明なプレート複数を弧を描く様な軌道でフレイムウルフへ放っており、逃げようと一歩踏み出したタイミングでフレイムウルフの全身を切り裂いたのだ!
「ギャ……く、く~ん……」
悲痛な声を上げながらフレイムウルフの身体から炎が消え去ると、代わりに真っ赤な血を流しながら横たわった。
「な、ナイストルト……」
今回の戦闘でもっとも上手く動けなかったジョンは相手に止めを刺したトルトにとりあえず賞賛を送る。
飛び退いたミレイはすぐにチグリスのほうへかけよると慌てながら剣を握るチグリスの手を引っ張った。
「チグリス……手……! ……あれ?」
燃え盛るフレイムウルフに手を突っ込んだチグリスの火傷を心配しての行動だろう。
ミレイが想像したのは捨て身で剣を振るい大火傷を負ってしまった仲間の手。
しかし、その予想は外れ、チグリスの手は何ともなかったかのように平然としていた。いや、良く観察すると少し湿っている様にも思える。
目を丸くするミレイに、チグリスは頭を掻きながら軽く笑った。
「チーくん、水魔法喋らなくても使えるのですか? 見た所、詠唱無しだと自分の身体にまでは効果を発揮できる感じですかね? 無茶したと見せかけて水の魔法で炎を相殺した、と」
トルトが両手の親指と人差し指をそれぞれつなげ指の輪っかをつくり、それをメガネのように自分の目にあてながらチグリスの方を見て分析する。
そんなトルトの方へ目を向けるとチグリスは爽やかな笑顔をしながら親指を立てた。




