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イクスアルディア戦記~俺とピエロと暗黒剣~  作者: 斎藤秋 & 弧滓 歩之雄 & 林集一 & 魔王さん
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第29話 グリム・グラハム・マルドゥーク


 

「……と言う訳だ」

 

 フロネシスが地面に突き刺した聖盾をクルクルと回しながらトラヴィスとトルトに先程ジョンに話した内容を話し掛ける。笑顔自体は先程ジョンに向けたものと一緒だったが、明らかに余裕はなくなっている。

 

「つまり、フロネシスさんの肛門のお尻拭きをお手伝いすればよいのですね」

 

「……そうだ」

 

「つまり、筋肉がこうやって、こう……盛り上がると言う事だろう?」

 

「それは違う」

 

 トルトの挑発とトラヴィスの話を聞く気の無い態度にフロネシスは段々と笑顔の精彩を欠いていく。手持ち無沙汰な左手の聖盾は既に地面を20cm程抉っている。

 

 少し離れたところで腕を組んで立っているジョンとチグリスが会話を始める。

 

「くくく、見ろよフロネシスとかいうオッサンの顔、明らかに苛ついてるぞ」

 

『意地が悪い』

 

「あの盾で墓穴くらいは掘れそうだな」

 

『早く探さないと逃げちゃうよ?』

 

「ん……、まぁ、それもそうだな」

 

 ジョンはフロネシスに近寄って胸を小突く。

 

「オッサン、冒険者を動かすのに必要なのは此処(・・)だよ」

 

 振り返って全員に向かって言い放つ。

 

「ようは依頼の二股ユニコーンの角を取るために敵を倒しにいくぞ! 」

 

「行きましょうか」

 

「ふふん、では行こうか! 」 

 

『早く行こう』

 

「おっと、チグリス。一応確認だが、ミレイはユニコーンと居て無事なんだよな?」

 

『無事』

 

「よし、じゃあ悪党退治と洒落込むか! ……で、何処に居るんだ?」

 

「俺は1人遅れて騎馬で来たんだが、南側の森の入り口には馬も馬車もなかった。ラストクアは森の奥の方に逃げたから、さっきの場所から他に抜け道があるならそっちかも知れん」

 

『任せて』

 

 チグリスがユニコーンの角を口に当てると、口の周りにファスナーが展開して具現化していく。そのファスナーをユニコーンの角を使って器用に抉じ開けていく。ファスナーに削られたユニコーンの角は光の粒となってファスナーが閉まるのを防いでいる……が、あまり長くは持たなそうな様子だった。

 

「ユニコーンからユニコーンの角を1本貰った。それで5分だけチグリス少年の沈黙の呪いが解けるようだ。魔法使いとやらのオンパレードだな」

 

 フロネシスはチグリスを見ながら目の前の現象を解説する。

 

「すげぇ」

   

「ふぅ、お兄ちゃん。オジサン、やっと喋れるようになったよ。でもあまり持たないから、呪文の詠唱に使うね」

 

 チグリスはそう言って暝眼脱力し、淡い光に包まれる。光は森の木々から吸収するように大きくなり、やがて彼の両の掌に集まり始めた。

 

「⚫Ф×∞♭◎…………! ∀∧Σ……! 」

 

 チグリスは掌と掌を重ね合わせながら何やら複雑な呪文の詠唱をした。すると、光が徐々に収束して行き、掌の中に1つの光る虹色の水滴が出来ていた。

 

「出来た。この水滴の上に松の葉を乗せて、と。これが指す方角にラストクアとグリマルドが居るよ。方向は北だね。ああ、もう5分か……」

 

「美声だな」 

  

「ユニコーンの角を使っても5分だなんて酷くない?どうやったら解けるのかさっぱりだよ」

 

 チグリスは閉められたファスナーに口を閉められて、再び話せなくなった様子だった。両掌をに上に向けてわなないている姿は少し演技過剰だが、あのくらいの子供は本来あんなものなのかもしれない。

 

「ああ、その件は心当たりがある。ラストクアとグリマルドとやらを倒したらお前にも話をしてやるよ。もしかしたらソレ治るかも知れないぞ」

 

『どうも』 

 

 ジョンを先頭にチグリス、トラヴィスと並んで歩き、その後ろにトルトとフロネシスが後方を警戒しながら歩く。フロネシスからラストクアが奇襲に長けていると聞いての事だが、今回においてそれは杞憂だった。

 

「いるか?」

 

 チグリスは首をかしげる。

 

『森を出た所に居る』

 

 森を抜けると開かれた草原に2頭仕立ての馬車が1台停まっていた。

 

「やぁ、諸君。大分遅かったじゃないか。」

 

 そこには白銀の鎧・白銀のマントを纏う余裕のあるラストクアと黒いローブの男グリマルドが馬車に持たれて待っていた。

 

「遅いのはこのオッサンの話が長かったからだぞ!」

 

「筋肉談義を遮ってな!」

 

「この方は盾で土を掘ってましたよ」

 

 とりあえず口火は俺達が切ったが先方は完全に無視を決めている。良い度胸だこの野郎。

 

「ラストクア、どういう事だ」

 

「そういう事です。貴方はここで死ぬ。……グリマルド!」

 

「もう、()使いが荒いですね。では」

 

()付き合い悪いな」 

 

 ラストクアの軽口にグリマルドは口笛で答える。それを合図に2頭曳の馬車から2()の馬が解き放たれる。その馬の額には1本の角が生えており、グリマルドの左手から放たれる黒い霧に包まれると青い瞳が赤く変色するのが見えた。

 

「これで、勝てないなら撤退ですよ」

 

 グリマルドは馬の抜けた馬車の御者席に足を組んで座る。 

 

「暗黒剣のミレイが居なければ、ソフィア聖騎士団団長フロネシスと言えどもダークユニコーン2()は倒せまい」

 

「ラストクア、何故そこまでして俺を狙う?」

 

「簡単ですよ、私はソフィア聖騎士団団長の座が欲しい」

 

「それだけか?」

 

「それと、この男がお前の聖盾と私の聖剣が欲しいと言っているな」

 

「聖剣と聖盾を……? 何故だ?」

 

 グリマルドが立ち上がり、両手を上げて説明を始める。

 

「簡単ですよ、その聖剣と聖盾、それから聖杯・聖笏・聖鏡・聖冠・聖柩の7つ、『七星聖遺物』はそもそも我が主の物なのです。主の名前は必要ですか?あなた方人間が魔族の王、『魔王』と呼んでいる人物と言えば良いでしょうか」

 

 グリマルドの言い放った台詞にラストクア以外のその場にいる全員が絶句する。ジョン・ミレイ・トルトの3名は魔王の婿を探していると言うヘリミアと言う魔族に会った事があるのだが、トラヴィスとフロネシスにとっては魔王や魔族と言う単語は全く意図しない衝撃だった。      

 

「お前……魔族なのか?ヘリミアって奴を知ってるか?こっちには魔王の婿候補がいるぞ! 襲っちゃ不味いんじゃないか?」

 

「確かに君達は常人よりは強い様だな、しかしヘリミアも()な仕事をするようだ。あれはお嬢様の付き人で、私は魔王様に直に接する事を許された四天王が1人、『魔獣使いグリム・グラハム・マルドゥーク』グリマルドと略しても構わないぞ。君達を殺した所で誰にも咎められるいわれはない」

 

「……ラストクア、悪魔に魂を売り渡したか」

 

「さぁ、私は聖剣とお前の死を交換しただけだ」 

 

「であれば、グリマルドとやら」

 

「何だ?」

 

 

「聖盾をお前にくれてやれば手を引いてくれるか?」

 


 

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